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職場の先輩方である、武子さん、雅子さん、涼子さんと食堂、大漁の方をチラチラ見ている。
「あれが噂の光一くん」
「かわいくていいじゃない」
ああいうタイプって五十代以上からモテるよね。母性本能をくすぐるのか?とにかく真実を教えてあげよう。
「それが、めっちゃやばいんですよ。金
持ちのバカ息子で洗濯機も掃除機もコンロ
も使えなくて」
「かわいい」
思いもよらぬ反応に戸惑った。何もできないのもまた魅力の一つになりうるらしい。
私たちは台車を押しながら、食堂の中をのぞき込んだ。
予想通りにあいつは失敗して、お客さんに怒られていた。
「注文したのは、魚介カレー!醤油ラーメンじゃねぇ」
「ごめんなさい」
店長が厨房から苦々しく睨んでいる。
見た目は怖いが、心は優しきるい君が小走りでやって来る。
「今すぐ魚介カレーお持ちします」
私たちは、ため息をつく。
さすがに、もう何時間か経つと仕事になれるだろう。そう信じた私たちは、二時間後、再び
台車にごみを載せて通りかかり、店内を覗き込む。
光一さんは、レジをしている。
「おつり5千円少ないんだけど!」
店長が飛んでくる。
「お客様、大変申し訳ありません。謝れ」
光一さんは悲しそうに謝っている。
「すいませんでした」
私たちは顔を見合わせる。
本当に何にもやったことないんだ。
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