1.翡翠との出会い

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心身ともに疲れ切り、店前のベンチに座っている。 あんなにいい香りだと思っていた、潮風の匂いがなんだか生臭く感じてきた。 休憩と行ってもベッドに寝られるわけではない、このベンチに座るしかできないのだ。 こんな奴隷待遇、あっていいのか? するとヤンキー崩れのルイが一人分開けて同じベンチに座った。 俺を励まそうとしているのか? ルイは唐突にこんなことを言い出した。 「お前みたいな金持ち大嫌いだわ」 今の俺は金持ちではない。 「今531円しか持ってない」 「メシウマ、びんぼっちゃま」 ルイはニヤニヤしながら俺を煽る。 だれだよ、田舎は優しい人ばっかりって嘘ついてるやつは。 「うるせーつるぴかはげまる君」 そうはきすてると俺とルイは睨みあう。 「俺はおしゃれ坊主なんだよ」 「俺の金はたまたま翼を授かっただけ。すぐに帰ってくる」 すると台車にごみを乗せた翡翠とおばちゃん店員達が通りかかった。 そういえば、あの女は隣のお土産やで働いてるんだった。 ルイは慌てて睨みあいを止め、翡翠を見つめる。 翡翠はルイに向かって微笑んだ。 「琉偉君、光一君と仲良くしてあげてね」 ルイは急に背筋を伸ばして俺の肩を組んだ。 「はい!仲良くしような、きり丸君」 「する訳ねぇだろう!クリリン君」     俺とルイは再び足の踏み合いをするが、ルイはすぐに戦いを止めて翡翠をみつめる。 「僕、今日早番なんでこれで失礼します」 ルイは翡翠に深々と頭を下げ、店の隣に止めてあったバイクで帰っていく。 ルイはなんでこの女に恐れをなしているのだろうか。 翡翠は俺を見つめた。 「やさしくていい子だから仲良くね」 「どこがだよ!」 翡翠とおばちゃん達は台車を押してゴミ捨て場の方へ歩いていく。
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