1.翡翠との出会い

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いつの間にか辺りは暗くなっていて、客の数も残すところあと一人となっている。 フラフラになりながらもレジをうっていると、客がため息をついた。 「3回もオーダー間違えないでよ」 条件反射で頭を下げた。 「申し訳ありません」 そいつが帰ると店長は俺を睨む。 「首だ!今日一日で何個失敗した!」 俺もそう思う。 こんなやつに仕事なんて任せられない。 しかし、すぐにパートのおばちゃん二人組が俺と店長の間にわって入る。 「店長、光一君、初めてだから」 「今すぐ辞めろ!」 店長は鬼の形相だった。俺も店長だったらそう言うと思う。こんな使えない男、雇いたくはない。 東京に帰るしかないのだろう。 父ちゃんに泣きつけば、何とかしてくれるかもしれないし。 しかし、おばちゃん達は俺を庇う。 「光一くん、オーナーからの紹介だからさ」 何故だ、無能な奴と一緒に働くと自分も仕事の負担が増えるだろ? 店長は鼻息荒く断固拒否した。 「絶対首だ!」 そりゃそうだ。 「光一君、他に行く所ないの」 おばちゃん達は今度は情に訴える作戦に出た。 店長はしばらく黙った後、帽子をとり、ため息をつく。 「一週間で普通に仕事できるようにならないと、クビだからな!」 店長は情に訴える作戦に負けた。 嘘だろ?こんな東京モンの俺に何で温情をかけるのか? おばちゃん達は俺を囲んで喜ぶ。 この一連の流れ、全く理解不能だ。 俺は今日たまたまここに来ただけの東京人だぞ。
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