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この小学生は隆志というらしい。
隆志はリュックからヒスイを次から次へと取り出す。
その一つ一つ見事なことといったら。
艶があるし、翠が本当に美しい、中には薄紫色のものまであった。
思わず歓声をあげる。
隆志は得意気に眼鏡を上げた。
「光一君、ヒスイはどこから来るか知ってますか?」
「海の底から出てくるんだろ?」
隆志は鼻で笑う。嫌味な子供だ。
「ヒスイは山にあるんです。それが崩れて川に流されて海に来るんです」
「じゃあ、山に行けばもっと大きい」
「山と川は採取禁止です。だから、ぼくたちは海辺を探すしかないんです」
翡翠は山から来る。
ヒスイを手に取りその美しさにまた見惚れる。
「実は今、東京に逃げ帰ろうと思ってた」
「想定内ですね」
隆志は鼻で笑う、
「ヒスイが俺の背中を押してくる。もう少しこの街で頑張れって」
すると玄関のチャイムが鳴る。
「誰だかわからんが、入ってこい」
そう叫んだ、それよりもヒスイを見ていたいのだ。
すると人間の翡翠がバナナ・りんごを抱えてはいってきた。
「隆志君、来てたんだ。果物あったから」
翡翠は俺のまとめられた荷物と東京と書かれた画用紙に気が付く。
「まさか!もう東京に?」
俺と隆志は慌てて鞄や画用紙を隠す。
翡翠は殺気を出し、しばらく俯く。
「アリとキリギリスってお話、最後はアリが遊んでばかりのキリギリスに食べ物分けてあげてハッピーエンドでしょ?」
何だか恐ろしくて何度も頷く。
「原作は読んだことある?アリと蝉」
後ずさりする。
「遊んでばかりの蝉は、冬に食べる物がなくなって、働き者のアリの家を訪ねるの。『食べ物下さいって』アリは呆れて蝉に言うの。『夏なにしてたんだ』?って。そしたら蝉は『夏は歌ってたよ』って答えるの」
怖くてさらに後ずさりする。
「そしたら、アリは『じゃあ、冬は踊ってなよ』って蝉を見捨てて、蝉は死ぬの!」
「アリの方がバカだろ?夏のうちに死んだらどうすんだ?」
「生きてる!冬を過ごすために夏は遊ばず働くんだよ!」
「俺は夏も冬も楽しみたいんだよ!」
「どうやって冬の東京で生活するの!?」
「やっぱ帰るのやめた。ヒスイ欲しいから、ここでもう少しだけ働く」
隆志は俺と翡翠に割って入る。
「翡翠ちゃん、ここは僕の顔に免じて光一君、許してやってよ。心入れ替えて、勤勉に働くって言ってるからさ」
だから、隆志の背後に隠れ、翡翠をチラッと見たが、死ぬほど怒っていたので、また隠れた。
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