1.翡翠との出会い

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久しぶりに足を踏み入れた診察室は、懐かしい薬のような病院特有の匂いがした。 看護師さんたちが1秒も無駄にするまいと、忙しなく動き回っているし、担当医の先生もどこか疲れていた。 先生がパソコンの数値と睨めっこをする。私の方を向き直り笑顔を作った。 「検査の結果は問題なさそうだな」 嬉しいような、残念なような。 「ありがとうございます。でもまだ体力が戻らなくて」 今のお土産屋での半日勤務がやっとだ。 何をしても、すぐに疲れて体が動かなくなるし、風邪もすぐひいてしまう。 退院したといえ、普通の生活が送ることができていない。 先生は机上にある保険外車名義のカレンダーカレンダーを見つめる 「退院から半年か」 「はい」 先生はまた疲れた笑顔を私へと向けた。 「焦らなくていいよ。海野さんは再発しないことが大切なんだから」   到底納得できないが頷く。 治ったっていうなら、早くいつもの生活に戻りたいに戻れない 病院を後にし、薄暗くなってきた路をトボトボと歩く。 潮の香りに誘われて気がつけば、ヒスイ海岸で海を見ながらベンチに座っていた。 今夜の海は穏やかでひいては返すその様子をただ、眺めている。
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