2.秘密の水晶

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「悪かった、母ちゃんがさ、光一今どこに住んでるか教えろって言うからさ、何にも考えないで教えた」 後部座席に座っている和也が両手を合わせて頭を下げた。 「いいよ、大丈夫だ」 車窓に映る山を眺めながらつぶやいた。別に和也が教えなくても、あいつは俺のことを探し出しただろう。 「光一、その書類に絶対サインすんじゃねぇぞ」 「サインする間もなく翡翠が破った」 そう言うと、和也が笑った。 運転席の翡翠は、嫌そうに呟く。 「あったら書くでしょ?」 「翡翠ちゃんナイス、こいつさ」 なんだが俺の悪口で盛り上がってる二人を尻目に大きなため息をついた。 もうこれ以上父ちゃんのことは考えたくない、考えれば考えるほど悲しくなるからだ。 だから、楽しいことで頭をいっぱいにしよう。 「あと何分で着く?」 今日は翡翠の案内により、山に水晶採取に行く。 俺のトレジャーハンターとしての第一歩だ。 「あと、5分ぐらい」 両手をあげて喜ぶ。 「なぁ、ところで後ろにあるやつ何?」 後部座席の和也の隣に置いてあるお中元のような箱を指差した。 「ゆみさん、その海苔好きなんだよね」 「ゆみさんって地主の?」 翡翠はハンドルを片手で握り、もう片方の手で近くの山を指差した。 「あそこの山の持ち主」 「山ってみんなのものじゃないのか?」 翡翠は首を振る。 「いい?日本には誰のものでもない土地はほとんどない。必ず誰かの土地、トレハンしたいなら絶対に事前に許可がいる」 許可、事前に許可。 トレジャーハンターのイメージとは正反対の言葉にげんなりする。 大自然の中に入っていき、大自然と闘う。 トレジャーハンターのイメージなのに、実際は事前に許可をとらなければならないなんて、サラリーマンみたいだな、、、 車は山道を走る。やがて絵に描いたようなポツンと一軒家が出てくると車はそこに止まった。 車から出てくると、その一軒家はザ、山奥の農家という佇まいだ。 広い縁側があり、そこに一人のおばあちゃんが座っていた。 翡翠は海苔の箱を持ち笑顔で近寄る。 「ゆみさーん」 ゆみさんは、翡翠を見てくしゃくしゃな顔がさらにくしゃくしゃになった。 「翡翠ちゃん、すっかり元気になって」 「ああ、ありがとう、ゆみさんこれ」 翡翠が海苔の箱を差し出すと、ゆみさんの顔はさらにくしゃくしゃになった。 「翡翠ちゃんありがとう」 「いつもお世話になってるし」 ゆみさんは俺たちを眺めた。 「翡翠ちゃんの今の彼氏?」 翡翠は慌てて否定する。今のってことは、昔の彼氏とここにきたことあるんだな。翡翠と付き合ってトレハンに来るなんて物好きなやつめ。 「あんな石で良かったらいくらでも持ってって」 「ありがとう、早速行かせて貰うね」 ゆみさんはしわくちゃになりながら頷いた。 そして俺たちは水晶めがけて、いよいよ出発だ。 急勾配な山道を歩く。
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