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代表取締役員室に入ると、父ちゃんが不機嫌そうに座っていた。すかさず裕樹は父ちゃんの横に立つ。
どこに座ればいいのかわからず、俺は取り敢えずソファに腰を下ろす。
「何?用事って。今月は出社しただろ」
父ちゃんは大きなため息をつく。
「会社の金、横領したのか?」
「はっ、何言ってんだよ」
裕樹が紙切れを机に置いた。
「この虚偽の決裁書類に専務の判子、確かに押してあります。8か月に渡り、計800万です」
俺はバカだ。けれど空気は読める。何かまずいことが起きている。
「えっ、その書類は……祐樹がここに判子押せば、100万貰えるって」
「兄さん、俺のせいにするな」
裕樹が涼しい顔で答えた。
まさかこいつ、俺を嵌めようとしているのか。
「父ちゃん、俺は本当にバカだけど、悪いことだけは絶対にしない。母ちゃんと約束してるから」
しかしながら、父ちゃんは俺を憐れみの表情で見た。
「母親を早くに亡くしたお前を、甘やかし過ぎた。こうなった以上、親子の縁を切る」
「父ちゃん、何言ってんだよ。可愛い息子が闇バイトしてもいいのか?」
父ちゃんは見たこともないくらい怖い表情で睨んだ。
「会社辞めろ、今住んでいる部屋からも出ていけ。カードも口座も凍結する。二度と俺に姿を見せるんじゃない」
裕樹はニヤっと笑う。
「俺と祐樹、どっちを信用するんだよ!」
父ちゃんに詰め寄り、思わず襟組を掴んだ。
「血の繋がりなんか関係ない。今のお前では、断然祐樹だよ」
祐樹はフッと小さく笑い、俺を見下した。
父ちゃんは俺ではなく、裕樹を選んだ。
当然だ、こんなバカ、息子として認めたくないよな。
父ちゃんを離すと、部屋を出た。
これからは裕樹が父ちゃんの本当の息子になるのだろう。
仕方がない
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