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会社を出てフラフラと歩いていると、いつもの仲間たちとのたまり場である、六本木にあるとあるパーティルームに自然と足が向く。
室内に足を踏み入れると、暗い照明の中でいつものメンバーがいつものように、はしゃいで過ごしている。
だから、俺もいつものように部屋の中心にある大きなソファに座った。
机を取り囲むようにして設置されたこのソファには、若い男女が十人ほど座っている。早速杏子が俺の隣に座った。
「光一君、やっほ」
「杏子、聞いてくれよ。会社の金を横領した罪なすりつけられてさ」
さっきまであんなに自分勝手に楽しんでいた奴らが、一斉に静まり返り俺を見た。
一番仲のいい杏子が話にくいつく。
「何それ?」
「祐樹っているだろ?親父の再婚相手の息子。そいつに嵌められた」
「それで、どうなんの?」
「会社クビになるし、マンションからも出ていけって言われるしさ」
俺以外の全員が顔を見合わせる、そして杏子は俺を慰めるわけではなく、励ますわけではなく、怒るわけではなくこう言った。
「この間、香港旅行したときにさ」
「聞いた!ジャッキーと会ったんでしょ?」
俺を居なかったことにしたのだ。
金も名誉もない俺には何の用もないらしい。
パーティルームを後にして、朱里の待つ家へ戻る。朱里なら俺を心配して、これこらどうするか考えてくれるはずだ。
玄関のドアを開けた。
「ただいま」
すると朱里は、見たこともないような大きな鞄を持ち靴を履いている。
「どこいくの?」
「会社の金パクってクビになったんでしょ?今までありがとう!元気で」
「えっ、え、朱里は、何があってもずっと俺を好きでいるって」
「そんなわけないでしょ。あんたから金取ったら何が残るのよバーカ。母ちゃん母ちゃんうるさいんだよ!マザコン野郎!」
朱里までもが足早に玄関から出ていく。
ただ一人残された俺は、玄関に寝転び、目を閉じた。どうしていいのかわからない。
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