32人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
幼い頃の俺と母ちゃんが布で石を磨いている。
「見て、この石ピカピカになった」
母ちゃんは俺を見て微笑んだ。
「光一っていう名前はね、この石と同じ。磨けば磨くほど、ピカピカ光って一番って意味なのよ」
「じゃあ、ぼく、たくさんみがいてピカピカ
の一番になるね」
母ちゃんはゆっくり頷いた。
目が覚めると玄関に寝ていた。
母ちゃんはいない、朱里もいない、一人ぼっちだった。
「俺、バカだから磨き方がわかんねぇよ」
そう呟いて再び、目を閉じる。
このまま永遠の眠りにつきたい。
しかし、すぐにお腹の音が鳴り目が覚める。
夜の8時を過ぎているというのに、マンションからほど近いハンバーガーショップは幸せそうな家族、恋人たち、友人グループで溢れていた。
俺だって、母ちゃんこそいないけれど、ついさっきまでは、あっち側の人間だったはずなのに。
ため息をつくと順番が回ってきた。スペシャルセットを頼み、スマホで決済する。
ところかレジを通らない。
店員がニコニコ顔でこう告げた。
「この決済は使用できませんね」
父ちゃんは仕事も辞めてマンションからも出て行けと言っていた。俺に一円も使う気はないようだ。
財布にかろうじてあった現金で払う。
そして財布には残り531円しかないことに気がついた。
「ありがとうございました」
甲高い店員の声を背に、夜の公園で泣きながらハンバーガーを食べた。
俺が頼れるのは地球上を大規模な軍で捜索しても、あと一人、あいつしかいない。
最初のコメントを投稿しよう!