1.翡翠との出会い

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妹とお母さんとお笑い番組を見ていた。 妹とお母さんは腹を抱えて笑っているが、そんな気になれない。 するといつもの時間に父が帰ってきた。右手には何やらお土産物らしき箱を持っている。 「チョコ貰ってきたぞ」 母さんと妹は宝くじで高額当選したかのごとく喜んだ。 「マカダミアンナッツ!」 私は唾を飲み込む。 「おいしそう……私はいい」 妹は無邪気に私を誘惑する。 「一粒ぐらい食べなよ。昔、チョコソムリエの資格とってたじゃん」 私は鼻で笑った。 「餡子ソムリエも持ってるから」 そう、私は甘いものが何より好きだった。 「でも、糖分は体に悪い」 父もまた私を誘惑する。 「少しぐらいいいだろ?」 思わず立ち上がった。 「体を一秒でも早く元に戻したいの!その為にはなんだってやる」 誰も何も言わずに私を見つめている。みんなかける言葉がわからないのだろう。 私の体が元に戻る日なんて来るのだろうか。 また誰も何も言わずにテレビに目を向けた、こういう時のテレビほど、ありがたいものはない。 しばらくすると真珠は、自分の部屋に戻ったと思うと、大きな鞄を抱えている。 「明日、彼氏の家から仕事場行くから」 父は激しく動揺した。 「彼氏ってなんだよ」 真珠は父を無視し、「行ってきます」と元気に家を出た。 父は涙を流して悲しんでいる。今に始まったことではないのに。 そして私は素直に妹が羨ましかった。 「いいなぁ」 私は2度と人から愛されることはないのだろう。 ソファに寝転がり、何にもない天井を見つめた。 お母さんが私の顔を覗き込む。 「翡翠、具合悪いんでしょ?」 これで具合が悪いとでも答えようものなら、明日の仕事に行かせてもらえなくなる。 「明日の朝はやっさん達と翡翠拾いに行くから」 わざと元気よく起き上がると、重い足取りで自室へと向かった。
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