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「いっちゃん、ここ!ここ場所空いてるよ!ここにしよう!」
私の名前は、千田泉。同期の葉山瑠美こと、瑠美ちゃんが、手を振って私を呼んでいる。
「良かった、良い場所空いてたね。早速グループチャットでみんなに連絡しよう」
今日は会社の同じ部署の仲間でお花見をすることになっている。
くじ引きに負けた、私と瑠美ちゃんは朝早く場所取りに来ていた。
桜満開の時期だけあって、沢山の人が場所取りに来ていたが、割と良い場所が取れて良かった。
でも、集合時間にはまだ早い。
「いっちゃん、あれ持って来た?」
「勿論。時間潰しにやろやろ!」
私達がお互いのバッグから出したのはゲーム機。
たまたま同じゲームを持っていた。
自分の好みのキャラクターをカートやバイクに乗せて、順位を競うゲームで、通信でコンピューターだけでなく、他人とも遊べるので、昨晩、チャットで今日持ってくる事を約束したのだ。
2人で笑いながらゲームしていると、あっという間に集合時間に近付き、ポツポツと会社のメンバーが集まり始めた。
私達はゲームをやめる。
「朝早くからありがとねー!今日は楽しもう」
「結構良い場所とれたね、ラッキー」
みんな用意してきた食べ物や、飲み物をそれぞれ出し合う。
勿論、お酒もその中に含まれる。
私はお酒を飲むと、気が大きくなる所がある。
友達同士の飲み会ならともかく、今日は会社の人達だ。
お酒を飲むのはやめておこうと心に決めていた。
私の苦手な部長も来るし、飲んでしまえば、文句のひとつも言ってしまいそうな気がする。
部長は、具平翔と言う。
私のように苦手という人は少ない。
特に女性社員は。
イケメンで、若くして、28歳で部長。身長も高くスラリとしているけど、スーツの上からでも逞しい体なのが分かる。
ただ、無表情なのが怖くて、私は近寄りがたい。
ミスをしたら、淡々と指摘してくるのも怖い。
いや、ミスをする私が悪いんだけど……
イケメンは遠くから見ているだけでいいのだ。
そんな具平部長も、集合時間10分前にやって来た。
今日はジーンズに黒のパーカーを着ている。
初めてみるカジュアルな部長はいつもより少し歳よりも若く見えた。
うちの会社以外の女性達も部長をチラチラ見ている。
……まぁ、そう言うオーラを放っている。
集合時間。
みんなが揃った所で、各々好きな飲み物を片手に持ち、幹事の山本さんが「乾杯!」と言うと、みんながその飲み物を上に上げた。
私は烏龍茶にしておいた。
すると、横にいた瑠美ちゃんが
「わ、このお酒おいし」と私にお酒の缶を見せて来た。苺のお酒。
「ね、一口飲まない?ホントに美味しいよ」
「や、私は…」
「でも、ホントに美味しいよー!飲まなきゃ損!」
確かに美味しそう。香りを嗅がせてもらうと、良い香りだし。
「じゃ、一口だけ貰おうかな」
飲んでみると、ホントにジュースの様に飲みやすい。
甘くて美味しい。
「美味しい!お酒じゃなくて、本当の苺のジュースみたい!」
私は新しく苺のお酒の缶を渡されて、ついうっかり飲んでしまった。
気がつけば2缶目。
良い気分になってきた。
置いてある食べ物も美味しくて、お酒片手に沢山食べる。
「すごい食べっぷりだな、いつもこんななのか?」
気がつくと、部長がいつの間にか隣にいた。
ゲッ!と思ったけど時すでに遅し。
「今日は特別ですよ。いつもこんな食べてません」
「ふぅん、皿が色んな食べ物でてんこ盛りだけど」
「いいんですっ!部長も食べたらどうですか?それとも何ですか、部長の口には合わないとか?」
「……そんな事はない、普通に食べてる」
「あと部長はもう少し笑った方が良いと思います」
「……なんだ急に」
私はお酒をグイッと飲んだ。
「怖いんですよ、無表情だし、何考えてるのか分からないし、私は苦手です!」
出た。私の悪酔い。
言わなくていい一言。
「別に俺も君に好きになって欲しいとは思わないけどな」
「そう言う事じゃなくて、ニコニコしててくれた方が近付きやすいんですよ。部長にはそれがない!だから、怖い!ミスしたら魂も抜けそうなくらい怖いですね!」
「ま、まぁまぁ、いっちゃん、そんな部長に絡んだらダメよ」
私の腕を引っ張る瑠美ちゃんの腕を振り解き、私は部長に突っ込む。
「まぁ、完璧であろうとも、カートゲームでは私よりは劣ると思いますけどね」
「カートゲーム?」
「そうです、これです」
私はバッグからゲーム機を出した。
そして、ゲームの説明をした。
「通信で強い人と戦っても負け知らずです、私」
ゲームくらいでフンと鼻を鳴らす私。
よくよく考えると恥ずかしい。
「……くだらない。そんな簡単そうなゲームで…」
「じゃあ、部長、私と対戦してみますか?」
部長の言葉にかぶる様に私は畳み掛ける。
心底呆れた顔をした部長が私を見た。
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