3日目

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「要するにアレだよ、アレ」と、パールが 口を挟んできた。 「『花咲か爺さん』の昔話、知らない?」 タイトルに覚えはあるがストーリーは憶えていない。 ポケットからスマホを取り出してググってみれば、 「犬がなんだか可哀想」というか、正直に生きてれば いいことあるよと教えられるお話である。 「その正直者の老夫婦が、僕のご先祖に当たるのだ。 毎年、秘密裏に紗倉家がゴーサイン出して、 気象庁が開花宣言を発表する仕組みになっておる。 ただ気候の良し悪しだけで、開花時期は決まらない。 私の一族は、全国にそれぞれ担当地区があって、 桜の声を聴いているのだ。 決して彼、彼女等に無理をさせてはいけないという 掟に(のっと)り、 咲きたい時に咲くがよろしと、呼びかけるのだ。 さすれば桜達は、合図を寄越すのだよ。 そして紗倉家の一族にだけ、その声は届くのだ」 パールも、その昔話で、隣の欲張り夫婦に虐待された 可哀想な犬の末裔だということだった。 「元々、俺の先祖もスピリチュアルなパワーを 授けられてたんだ」ってことで、一旦死んでみせたが 後に再生したらしい。 「で、代々、紗倉家の執事を務めることになったって わけさ」と言った後で、パールはペットボトルの水を ねだってきた。 あまりに奇想天外な話に、誰が着いて来れるだろう? 私しか居ないと、年の割に器の大きい櫻子は、 「分かりました、決して口外致しませぬ」と、 これまたキャラを紗倉に、寄せておいたのだった。
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