あいしている あなた。

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 ……私は、あなたがあなたを消した理由を知りたい。  賑わう街の真ん中の街頭TVには、あなたの姿が映っている。無邪気に天使の微笑を浮かべるあなたの姿が。それはまさにアイドルだった。  私の生きる意志そのものになってくれた、輝くアイドル。 「あの子、自殺したんでしょ?」 「皮肉よね。生きてる時はそんなに売れてもなかったのに、死んでから注目を浴びるなんて」  私と同じように、交差点で信号を待ちながらTV画面を眺めていた女の子達の声が聞こえる。  そう、あなたは死んでから色々な媒体で一気に取り上げられるようになった。あなたの発していた輝きに、今さら世界が気付いたでもいうように。でも、もうあなたはいない。  現実から、私の目の前から消えてしまった。  一秒一分毎に砂を噛むような職場から帰り、私は小さなアパートの一室でベッドに倒れ込む。  スマホの音楽アプリを起動し、あなたの曲を再生した。スマホと繋がる小さなスピーカーが振動して、優しいあなたの曲が流れ出す。  涙が自然と溢れた。 「どうしていなくなってしまったの?」 「そうすれば、みんな私を見てくれると思ったから」  啜り泣きながらぼんやりしていた私の耳に言葉が届く。ギョッとした。だってこの部屋には私しかいないはずで、なのに確かに声は聞こえ、そして室内の気温が急に下がった気がして……。 「だ! 誰!?」 「望んだ通りになったのに、私は最高のアイドルだってみんな認めてくれるのに、どうして私は満足できないの? どうして、歓声を浴びてもそれが私のことだって感じられないの!?」  目を開けると、目の前にはあなたがいた。霞のように心許なくとも、あなたが。 「私という存在が現実から消えれば、私のいた場所には光が満ちると思っていた。私というアイドルが完成するって。ただこのまま年老いて、醜くなってまで生きるのは嫌だったのに!!」  その言葉を聞いた途端、強烈な怒りが湧き上がってきた。  そんな理由で、あなたはあなたと言う存在を消しさったの!? 私の救いだったあなたを! 「許せない……だって、あなたは私の全てだったのに!! 私の生きる全てだったのに!!」 「だってそうでしょう!? アイドルは夢なのよ! 私は完璧な夢になったのよ!!」 「夢じゃない。あなたが生きているから、輝こうとしていたあなたが人生が私の救いになった」  私はあなたに手を伸ばした。絶対できないはずだった……幽霊に手は届いても触れられない。 「私は輝いてるわよね? みんな私を認めてくれてるわよね? みんな私を呼んでいるわよね? 私が最高のアイドルだって!! ……やっと私が認められたのに、なんで……?」  可哀想なあなた。死んでしまったあなたは、影にしかなれないんだね。現実であなたが認められるたび、死者のあなた自身は暗い影に追いやられる。……それだけ、なんだね。 「愛してるわ、私はきっとずっとあなたの偶像を愛し続ける」 「愛なんか必要じゃない。私の欲しいのは熱狂と歓声よ! みんな!! もっと、もっと私を呼んで! そうすればきっと私は最高になれる!!」  私の心は通じない。あなたは始めから遠いところにいた。私の両手で抱きしめていた、泣いているあなたの姿が消えていく。彷徨うあなたが次にどこに行くかはわからないけど。  自分を消しても光を求めたあなた。でも、本当にあなたはあなたを消したかったの?
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