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吸って、吸って、吐いて、吐いて。
スッスッ、ハッハァ――
強い陽光に照らされて私の全身は十分に熱くなっている。信号を左に曲がって小学校のヒマラヤスギを見上げながら私は徐々に歩く速度を落としていく。残り十メートル、そこで私は腕を大きく振りながら膝を高く上げて歩く。見た感じはちょっと恥ずかしいけど、これはこれでストレッチを兼ねているのダ。
マンションのエントランス、ウォーキングの終わりに私はここでクールダウンを兼ねた軽いストレッチをする。
ランニングパンツから伸びる、ピッタリとフィットした生地に包まれて汗でしっとりしている下肢に手を添えて屈伸。シャツの隙間からのぞくくびれなんて言えないけれどそれなりに曲線を描く脇腹に手を添えて腰と背骨をストレッチ。あとはまだ少しだけ熱を帯びているふくらはぎから腿、そして腕をコンプレッションウェアの上から撫でるようにマッサージする。
部屋は三階、私はここから部屋まで階段を上がる。段を踏むたびにフィットしたウエアのステッチが筋肉の流れをなぞるように刺激してくれるのが心地よい。
そして到着。
さあ、まずはシャワーだ。あっ、でもその前に……。
私はウェアを通して少しだけ湿り気を帯びたシャツとランニングパンツを洗濯カゴに投げ込む。そしてコンプレッションウェアだけの姿になるとフローリング床の上で開脚ストレッチを始める。以前は足なんて全然開かなかったけど今はずいぶんと開くようになったわ、さすがに一八〇度なんて無理だけどね。
内腿の筋肉が十分に伸びたならばなめらかな生地の感触を楽しむように両腕を広げてそのまま上半身が床につくまで前屈する。すると腕、肩、脇までもがウェアの伸縮に包まれているのがほどよい締めつけから実感できる。
それから私はコンプレッションウェアによる緩い緊張感に身をまかせる。わき腹から少しだけふっくらしている胸に指先がたどり着くころにはその先端が少しだけこわばって身体の奥が何かにギュッとされるような感覚にとらわれる。
でもまだダメ。私はそこから再びステッチをなぞりながら今度はボトムスの手触りを確かめる。太腿から特徴的な曲線を描きながらその付け根の奥に延びる縫い目をなぞるように指先がそれ追う。
やがて私のお腹の奥から熱いものが溢れ出して、そうなる頃には私の指は私の身体が求めている場所を目指して動きの範囲は集中していく。クールダウンした身体は再び熱を帯び、一方で全身の筋肉はとろけるように弛緩していく。そんな私の身体が溶けて崩れてしまわないようにコンプレッションウェアのトップスとボトムスがその全身を優しく締め付けて包み込む。やがて肌と生地とが一体となって包まれたそこは素肌以上に感度が高まる。
それはまさに第二の皮膚。私はなによりもこの感触が好き、それはスポーツすることなんかよりもずっと。
そう、私は鍛えるためではない、シャワーの前のこのひとときのためにこのウェアに身を包んでウォーキングしているのダ。
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