セカンドスキン症候群 ~ フェティッシュ・ヴァリエーション:Case02

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 吸って、吸って、吐いて、吐いて。  スッスッ、ハッハァ――   吸って、吸って、吐いて、吐いて。  スッスッ、ハッハァ――  これが私のリズム、ウォーキングをするときはいつもこの呼吸をキープするようにしているのダ。  高まる体温とともに地肌に浮かぶ汗が、心地よい圧力で私の全身を包み込むコンプレッションウェアを通してさわやかな大気の中に発散される。そして歩くたびに、動くたびに、私の筋肉をなぞるように走るステッチが細胞の代謝を効率よくサポートしてくれる。  私の気持ちはますます高揚し、そして歩く速度も上がっていく。するとそれに呼応するかのようにお気に入りのウェアはますますぴったりとフィットして、やがて私のすべてを抱きしめてくれるのダ。  今日のウェアは黒をベースに蛍光ピンクのステッチ、少し小さめなサイズを選ぶのが私のスタイル。そのおかげで身体(からだ)の動きに合わせてしなやかな光沢が腕や腿に浮かび上がる。  トップスはシンプルにショート丈の白いシャツ、ボトムスにはステッチの色に合わせたショッキングに近いピンクのランニングパンツ、この組み合わせは私の一番のお気に入り。  少し派手に見えるかも知れないけれど、ウォーキングするときは日常とは違う気持ちになりたいし、なによりこのカラーは自分の存在証明、すなわち交通事故の防止にもなる。だからこのコーディネートにはちゃんとした意味があるのダ。  ベースのカラーにはネイビーブルーやチャコールグレー、迷彩柄なんてのも考えてみたけど、それに合わせるシャツやボトムスのことを考えたならば、やっぱりベースは黒がしっくりくる。でも黒ばかりではおもしろくないから、そのぶんステッチの色やラインのヴァリエーションで楽しんでる。  今日着ているピンクステッチの他にはイエローにグリーンにブルー、これらはみんな蛍光カラー、それにホワイト。ありきたりな定番かも知れないけれど、だからこそどんなコーデにも馴染んでくれる。  真っ白なウェアにも憧れるけど、あれは私が考える以上に他人(ひと)の目を引く。だからやっぱりウェアのベースは黒がよいのダ。  そして私は今日も歩く、心地よい日差しとさわやかな風を受けながら。  こんなひとときが私のお気に入り。何もかも忘れてただひたすらに歩くこの時間(とき)が今の私にとってはなによりも大切なのダ。
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