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「ねぇ、ちょっと」
私はすれ違いざまに、スーツを着た若い男に声をかける。
きょとんとした顔をして振り返った男の顔を間近で見て、私は確信した。こいつが、こいつが萌香を・・・。
「なんか用かい?どこかで会ったことあったっけ?ええと・・・」
男は急に私に声を掛けられ困惑している。とぼけている?いや単に顔をちゃんと見ていないだけか。私はカバンの中で、あるモノを握りしめながら逸る気持ちを押さえつける。
「3日前、私と萌香・・・、私の友人がひき逃げにあったの。私は軽傷だったけど、萌香は亡くなったわ。でも轢かれる瞬間、運転手の顔を見たの。轢かれてからの記憶は曖昧だけど、犯人の顔だけははっきりと覚えてる。間違いなくあなたよ。思い出した?」
「ちょっと待ってくれ。」男が食い気味に答える。
「3日前は地方に出張に行っていて、帰ってきたのは昨日なんだ。アリバイがある。僕じゃない!」
「でも顔ははっきりと覚えてる。絶対にあんたよ!」
「嘘だと思うなら会社に確認してくれればいい。とにかく人違いだったってことで・・・?」
自分に関係ないと分かり、面倒くさそうな態度を取り始めた男は、途中で何かに気づいたように言葉を止める。
「もしかして、君が言っている男ってこれかい?」男は私にスマホの画面を向ける。そこには私を轢いた男、今目の前に立っている男が写っていた。
「この男で間違いない。やっぱり私を轢いたのはあなただ。」
その言葉を聞くと男は画面を横にスクロールした。そこには驚くべき写真が表示されていた。
顔が同じ男が二人並んで写っていたのだ。
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