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「……それは、気づいていませんでした」
自分は何もわかっていなかった。膝の上で拳を握りしめるゴートン。
「我々は……この国は。長らく予言者の皆様の心を犠牲にして、繁栄してきたのですね。なんて、恐ろしいことでしょう……」
「良い。我らの力が国のためになるのは悪いことではない。妾達も、そこに誇りがなかったわけではないのだからな。だが……この国はもう十分大きくなった。本当に、妾たちの力はこれからも必要なのか?この力に頼るがゆえに、自分たちで望む未来を作り、準備をしようという考えが欠落しつつあるのではないか?それを、妾はずっと危惧しているのだ」
「あ……」
何故、彼女がエイプリルフールにかこつけて嘘をつくようになったのか、やっとわかった気がした。
彼女がついた嘘の予言、“オルドリン王国が宣戦布告してくる”。この予言がなければ、王様はオルドリン王国の動向に気を配るのを忘れていたのではないだろうか?そして、もっと和平のために手を尽くそうと考えることはなかったのではないか?
予言は嘘だったが。ひょっとしたら――嘘にすることができた、のかもしれない。王様が予言に危機感を覚えたせいで。
しかし本来ならば予言などなくても王様が、政府が、自分達で気づいて行動しなければいけないことではあったはずだ。
「貴女は、嘘をつくことで……人々に、王様に、予言などアテにならないから自分達で頑張ろうと……そう考えてもらおうとしている。そうですね?」
予言者は自分で仕事をやめることができない。だからこそ、彼女は遠まわしに、予言者としての地位を失墜させようとしたのではないか。例え、それで己が糾弾され、裏切者と呼ばれることになったとしても。
「……ゴートンよ、そなたは王と旧知の仲だと聞く。そして、妾の意図に、語らずして気づくほど聡明だ」
バーバラは、どこか眩しそうに眼を細めて言ったのだった。
「これからのこの国の未来を築いていくのは、妾でも予言でもない。……そなたと王に、全て任せるぞ。どうか、この国を頼む」
あの子供っぽい王様を説得するのは、多少面倒かもしれない。それでもゴートンは頷いて、彼女の館を後にしたのだった。
予言が幕切れを迎える時。それは、国が滅ぶということではきっとない。
きっとそこから、新しい世界が始まるのだ。もう誰も、犠牲にしない世界が。
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