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第二話 ノロケと不満
スクールカースト上位勢の鷹千代と、絵に描いたような下位の雲雀。
彼らは所謂、本来であれば相対することのない人種同士。
鳥類の中でも小さいものとして総称される鷹でも、さすがに雀には勝っている。そんな彼らがどうして放課後同じ家宅で過ごしているのか。……答えは至極簡単、互いの実家は学校から遠距離にあり、なおかつ幼馴染という肩書きがあるからである。
「……タカくん。そんなにニコニコしても、こっちで一緒に寝ないから」
昼間のおどおどとした態度は消え失せ、代わりにぶっきらぼうな口調が鷹千代に降り注ぐ。こちらも以前のような高圧的な態度とは打って変わって、まるで忠犬のような人懐っこい笑顔だったが彼の一言によりわかりやすくしょぼんと落ち込む。
「え……ダメ?」
「駄目。明日も学校あるから。自分の部屋に戻って宿題でもしなよ、数学の抜き打ちあるって噂だし」
夕食のカレーライスを平らげ、雲雀は手を軽く合わせると捨て台詞のように皿を持ち上げてキッチンへと向かう。それを追い掛けるように鷹千代も続く。
「んじゃ、超名案の提示。明日、一緒にサボるっていうのは」
「却下」
「えー、判断早くない⁉ つか、まだ詳細言ってない」
「聞かなくてもわかるよ。タカくんのこと、なんて……何、ニヤついてるの?」
食器を洗面台に置き、軽く頬を膨らませては問う。その様子が鷹千代にとっては愛おしく見えて……。
「いやー、好きだなぁって思って」
「は?」
「ええ……低い声のまま、蔑んで言われるとか――イイ! けど、今日やけに対応冷たくない? どした、話聞こうか? それとも一緒のベッドでイチャコラ……」
「しないってば」
即刻否定後、雲雀は大袈裟にも溜息を吐いた。そして、そのまま不満を口にする。
「……最近のタカくん、日中でもウザ絡み多い気がするんだけど?」
「ええ? そこはスキンシップって言って欲しいな。あれ、一応気遣いよ? 常にぼっちを貫く王子様への、お兄ちゃんからの素晴らしい配慮ってやつ」
「お兄ちゃんって……同級生だし。たかだが数ヵ月先に生まれただけで僕の兄面しないでくれる?」
「あはは、手厳しいねー」
嫌味の無い笑顔の鷹千代に幼馴染は不満が募る。
敢えて嫌われるような発言をしているのになぜ構うのか、そう素直に訊ければ……と脳裏に過らせながら目配りをする。
「それ、ここに置けば?」
「ん? ……ああ、もしかして洗ってくれるの? やっさしー」
「別に。汚い食器が目に入って目障りだっただけ。早く置いて、もうすぐ洗い終わるから」
「へいへい」
鷹千代は素直に従ってはテーブルチェアを持ち、雲雀の方へと向けて自身が座る。
暫くの間、蛇口から放たれる水の音のみがその場を支配したがふと雲雀は口を開けた。
「――タカくんは、さ」
「ん、何?」
突発的な会話は滑らかには進まない。口元を微かに振戦した後、絞り出すように問うた。
「……学校って、楽しいと思う?」
「んー、まあまあかな。いつもツルんでるあいつらとはまあ、ザ・高校生って感じで悪くないし。クラスのやつもさ、何人か俺と同じゲームが趣味っていうのも居て。あ、この前学校終わってからネット対戦したんだけどめちゃくちゃ強くて! んで、そいつのこと師匠って呼んでるんだけど」
「ふ、ふーん。……青春を謳歌してるようで、何より」
「おお、相変わらずの上から目線ありがとうございまーす。で、そういうスズメくんはどーよ?」
仕返しと言わんばかりに問い、雲雀は困ったように目を伏せて少しの間だけ押し黙る。
「…………聞かなくてもわかるでしょ」
「いんや、わかんないね」
「はっ、はぁ……? 僕が充実してるとか、本気で思ってるの!? 僕はキミと違って――んん!?」
雲雀の唇に柔らかな感触が熱を帯びる。
不意で唐突な口付けに泡だらけのスポンジは右手から静かに零れ落ちたいく。優し気で悪戯な笑みを浮かべる鷹千代を目先にしながら。
「バカだなぁ、ひーくんは」
「バ……って! ってか、いきなり何す……」
「俺が居るじゃん」
「……っ!」
声にならない驚きと共に、雲雀は先程の口付けを拭うように左手で自身の口元を隠しながら俯き小声で放つ。
「………………………………馬鹿」
「おうおう、言ってくれるねぇ。さすがのタカくんも最愛の恋人からの涙は心抉られるものがあるよ? それとも……それは、嬉し泣き?」
「う……うるさい! もう、帰って。か、帰ってよ!」
「へいへい」
雲雀による必死な訴え。その発言が心から来たものではないと彼は理解しているが、同意以外は何も告げずに玄関へと向かう。すんなりと素直に受け入れられて困惑する少年を独り残して。
「んじゃ、おやすみ」
「あ……。ん、おやすみ」
短い別れを放ち、互いに本音を隠す。
告げたかった想いと、知りたかった願いを秋の夜更けに乗せて。
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