優等生

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可哀想に…。 恭子は脳内で勝手に少年を同情する。 少年は上下黒を基調とした服を着て、座敷の隅に縮こまって、学校のテキストと思われるものに黙々と鉛筆を走らせている。 喪服にあたる服を持っていないのだろう。 少年の母親が昨日死んだ。 死因は中毒死らしいが詳細は解析中だ。 母親は最近では週の半分は家に帰らないこともあったという。 噂じゃ危ない連中とつるんで怪しいクスリに手を出してるとかなんとか。 おそらく死因はそのクスリの中毒によるものだ。 一昨年には少年は父親を交通事故で亡くしている。 少年は一人っ子なので正真正銘独りぼっちになってしまった。 少年の母親は専業主婦だったため、父親が死んでからは生活が貧窮した。母親は精神を病み、少年に暴力を振るうなりして児童相談所の世話になったことも数回あるという。 可哀想に…。 両親を亡くしたというのに何食わぬ顔をして勉強を続ける少年の異常さを見ながら何度もそう思った。 愛情を与えられて育たなかったから人の心を持ち合わせていないのだ。 少年の居場所が学校しかないことは容易に想像できた。少年の居場所は学校だけで、少年は学習に縋るしかないのだ。 人の心を失った感情のない学習ロボット。 世間はこれを優等生と呼ぶのだろうか。
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