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「絶対に、誰にも言わないって約束しなさい」
兄さんの彼女が、仁王立ちで僕を見下ろしている。背筋が寒くなるような冷たい目。それは、彼氏の弟に向けるような目ではない気がする。
なぜ、こんなことになったのか。それは5分ほど前のことだ。
兄さんの彼女は、僕のことを嫌っている。
家で何度か会ったことがあるけれど、挨拶以外の会話はしたことがない。いつも、ちらりと横目で僕のことを見ては、目を逸らす。
兄さんと話す時は、にこにこしているのに、僕が一体何をしたというのだろうか。あからさまに冷たい態度を取られると、少しだけ傷付く。
僕が知っているのは、彼女が2歳年上の兄さんと同じ高校2年生で、ユキさんという名前だということだけだ。
ある日の学校帰り。本屋から出て歩いていると——。
「うわっ!」
路地から出て来た誰かとぶつかり、思い切り尻餅をついてしまった。地面に打ちつけた尻が痛い。それに、同じ学校の人に見られていたら最悪だ。死ぬほど恥ずかしい。
「涼介くん……?」
聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
——ん? この声は……。
顔を上げると——やはり知っている人だ。雪のように白い肌に、薄いブルーのロングヘア。髪の毛よりも少し濃い青の瞳が、僕を見下ろしている。
「え……? ユキさん?」
横を見ると真っ暗な路地がある。どうしてユキさんは、こんな所から出て来たのだろうか。
「何してるの?」
ユキさんが目を細くすると、急に寒気を感じた。気のせいかもしれないが、冷たい風が纏わりついているような気がする。
その時、路地の奥から「うぅ……」と呻き声のようなものが聞こえてきた。男の声だ。
「え? 何……」
暗闇に目を凝らそうとした瞬間——胸ぐらを掴まれて、ぐいっと持ち上げられた。
「うわっ!」
足が宙に浮いている。僕を持ち上げたのはユキさんだ。
——えぇえ!? 何、この人! 力つよっ!
2歳年上だといっても、片手で僕を持ち上げるなんて、普通じゃない気がする。身長はユキさんと同じくらいだし、体重も中3男子の平均だと思う。
「行くわよ」
ユキさんは僕を持ち上げたまま歩き出す。
「お、おろしてぇぇぇ!」
「騒がないでくれる? 目立つじゃない」
「いや、もう充分目立ってるから!」
女子高生が男子中学生を持ち上げて歩いていたら、目立たない方がおかしい。周りの人達も当然、僕たちを見ている。
——誰か、通報してください!
願いも虚しく、見ている人と目が合っても、すぐに逸らされてしまった。おそらく、かかわりたくないのだろう。僕だって、今すぐに逃げ出したいのだから。
——なんで、こんなことに〜!
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