そして、私はため息をつく

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 ジャージからいつもの服装に着替えると、やはり気持ちが引き締まる。さあ、仕事だ。  今日の資料に目を通していると、社長に声をかけられた。 「時間です」  面談会場に入っていくと、朝、ぶつかった学生がにこやかに待っていた。私と目が合うと、驚きの表情になる。  さすがに私が会長だと気づいたらしい。  面談が始まっても落ち着きがなく、人事部長が不思議そうに彼を見ている。  私は資料の彼の名前を二本線を引いて消した。  きっと、内定を出さなければ、彼は私のせいだと思うだろう。ぶつかった仕返し、エレベーターの扉を閉められた仕返し。  でも、私は仕返しをするような人間じゃない。  内定を出さない理由は簡単。コミュニケーション能力が高いなら、私とぶつかった時にみせるべきだった。『すみません、急いでるんです』でも何でも、私を納得させるべきだった。  それに情報収集能力があるなら、私がジャージ会長として有名なことぐらい知っているだろう。  それでも彼には仕返しだときっと思われる。  私はため息をついた。
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