そして、私はため息をつく

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 ハッハッハッ。  息があがっている。  立ち止まって、ペットボトルの水を飲む。皺のよった手が目に入り、嫌になる。  そろそろ、一駅手前からジョギングで通勤というのは無理かもしれない。年の割には若いと自負してきたけど、やっぱり衰えは隠せない。  仕事を辞めるというのも考えないわけじゃない。辞めたって、生活には問題ない。  でも、ずっと働いてきた。離婚した後からずっと、働いてきた。  女のくせに出しゃばるなと言われても、女は感情で考えるからダメなんだと言われても、夢中で働いてきた。 「貧乏性なのよ、お母さんは」  娘は笑うが、必死に生きてきたのが習慣になってしまっている。今さら、のんびりなんてできそうにない。  幸い、今の仕事は定年なんて、あってないようなものだし。 「うわっ」  後ろから誰かがぶつかってきて、あっけなく転んでしまった。 「おばあさん、大丈夫ですか」  制服の女の子に手を差し出され、すがって、立ち上がる。不安に思ったが、骨がは折れたりしていないようだ。まだ、大丈夫ということか。 「謝るぐらいしなさいよ」  女の子の言葉に前を行く若い男性が一瞬、振り向いた。こちらの姿を確認すると、足早に去っていく。 「まあ、私も歩道で立ち止まるなんて、邪魔だったよね。ありがとう」  女の子にお礼を言うと、会社に向かった。  ぶつかっていった青年も同じ方向らしい。長い足ですっすっと進んで行く。  若いっていいな。  後ろをついていくと、見事なリクルートスタイルなのが気になった。髪型、ネクタイ、スーツ、鞄。リクルート雑誌の表紙を飾れそうだ。  今日、うちの会社でも、新人採用の最終面談があったけど。  やっぱり。  青年はうちの会社に入っていく。  エレベーターが開くと、入っていった。私ものせてもらおうと早足になる。  青年は私を見た。それから、ボタンを連打する。  ドアが閉まった。  間違えたんじゃない。私をのせずに先に行こうと閉のボタンを押したんだ。  私はため息をついた。
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