そして、私はため息をつく

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 就活なんて簡単だ。  筆記試験なんて、大して難しい問題は出ない。名の通った大学で文句のない成績を取った。見た目は爽やかで好感がもてるとよく言われる。ボランティア活動を行い、趣味はフットサル。特技は初対面の人と仲良くなること。つまり、コミュニケーション能力が高いことをアピール。会社によっては情報収集能力もアピールする。これは入社後、企画部門に進むための一手だ。汗をかくような現場や営業には興味がない。  予想通り、内定は順調に集めることができた。  今日は本命の最終面談だ。  この会社は何といっても給料がいい。将来性もあるし、福利厚生もいい。口だけのワークライフバランスではなく、本当にホワイトな企業らしい。異常に離職率が低いのがその証拠だ。  だから、競争率は高い。それでも、最終面談まで来た。ネットの情報によると、最終面談まで来たら、内定は確実らしい。  それでも、最後まで気は抜かない。  最寄りの駅を降りると、背筋を伸ばして歩く。そういえば、今朝のニュースで新しい経済政策の話があったけど、話題に出たりするだろうか。内容は覚えているが、経済学者の名前はなんだっけ。  スマホを開けて、ニュースを確認すると、ポケットに戻した。  ドンッ。前をよく見ていなかったせいで、人にぶつかってしまった。  ジャージ姿のお婆さんが転んでいる。道の真ん中に突っ立ているのが悪いんだ。  そのまま、前へ進むと、女の子の声がした。 「謝るぐらいしなさいよ」  振り向くと制服の女の子がおばあさんと一緒に立っている。孫なら、きちんと付き添えよ。おばあさんと目が合ったが、怪我はないようだ。  こんなところで立ち止まっている暇はない。俺は会社に向かった。  大きく立派なビルだ。今日の面談は24階。エレベーターが降りてくるのが遅くて、ちょっとイライラする。  やっと降りてきて、乗り込み、向きを変えると、さっきのおばあさんが慌ててやって来るのが見えた。  そういえば、この会社は高齢者の雇用にも熱心だったはず。掃除のおばさんだろうか。それなら、俺が待たなくても次のエレベーターに乗ればいいだろう。  俺は閉ボタンを連打した。  閉められたことに気づいたおばあさんの驚いた顔が何だかおかしかった。  面談会場に行く前にトイレでもう一度、身なりをチェックした。うん、いける。俺は自信を持って、会場に入った。  俺以外の学生は男二人、女三人。俺の同期になるわけか。愛想よくしておこう。 俺は微笑んで開始を待った。  面談相手が入ってくる。先頭は今までの面談でも会った人事部長だ。その次は社長だ。お相撲さんのような体型なのですぐわかる。その後は……。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!