白雪姫登場

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「茨姫が目覚めたとは、初めて聞きます。」  その情報はまだこちらには届いていなかった。  しかも白雪姫の婚約者であるヘッセン王子が目覚めさせたとは。   「だからね、伯爵。あなたが茨姫を誘惑したらいいのよ。」 「イヤです。」  思わず食い気味で断った。  いきなりなにを言うやら、母子で同じ発想とは。 「あら、なぜ?」 「私はバジーレ王国とはなんの繋がりもありませんし、ざっと百十五才の姫はちょっと…。」 「あなた何才よ?」 「……永遠の二十六です。」 「プラス二百でしょ? 大丈夫よ、茨姫の見た目は十五才で止まっているわ。ちょっと古くさい見た目だけれども……美人よ。」  白雪姫はふふんとバカにしたように微笑む。  いやいや、だからロリコンの仲間入りをするつもりはないのですよ、二十から二十五あたりがちょうどよくて……、とは言えない。 「伯爵は王子より見目がいいもの。茨姫はきっとなびくわ。手っ取り早く血を吸ったら?」 「ほいほいと他国に行って血を吸うわけにはいきませんよ。しかも王族の姫君を。」  そこで、はたと女王の命令を思い出した。  そういえば白雪姫を籠絡するのだった。 「では白雪姫はどうなのです? 私などは。」  白雪姫はきょとんとした顔で伯爵を見上げた。   「私が姫の話し相手になりましょう。とりあえず気晴らしに街歩きなど、ご一緒にいかがですか?」  嫌々ながらきらきらしい笑顔で姫に問う。  白雪姫はくすっと笑って言った。 「私が欲しいのはヘッセン王子と茨姫が私の前で跪くこと。それに血を吸われるなんてごめんだし、あなたの奥さんの敵にはなりたくないわね。私はこれでも思慮深いの。」  ですよね、とドラキュラ伯爵は心の中でほっとした。 「とにかく、茨姫は私より(見た目は)一つ年上。王子には今は私という後ろ盾のしっかりした婚約者がいるけれども、絶対に王妃の座を狙っているはずよ。……あの女、まだなんだかぼんやりしているけど、あれも絶対に作戦。城のみんなや国王夫妻を油断させているんだわ。」 「では、お帰りになられた方が……。」    女王からの命令はどうでもよくなった。早くこの場から去りたい。   「いやよ、帰らないわ。まだ私は正式な婚約者よ。それに国としてはうちの方が大きいのだし王子だって無下にはできないわ。教会が私との婚約解消を認めない限り、あの女とは結婚できない。王子と茨姫がここに来て私の前で土下座するまで絶対に帰らない!」  めちゃくちゃ言っているな。  伯爵は、ううむと口を閉じた。  白雪姫は胸の前でぐっと拳を握り、黒い瞳の中にメラメラと炎を燃やしている。
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