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「他国の王子と王女がここに来るのは難しいかと。で、女王陛下はなんと?」
「お母さまは私の気が済むようにしていいとおっしゃったわ。」
(女王陛下……)
ドラキュラ伯爵はこめかみをぴくりと震わせる。そうですか、丸投げですか。
「でもお母さまは『忘れてはいけないからダンスのレッスンと勉強は続けなさい』って言うの。」
「まあ、そうでしょうね。」
「ダンスはまあいいけど。なぜ勉強やレース編みや刺繍をしなくてはならないの?」
「それはやはりいずれ王妃となるには必要なことだからではないでしょうか。それに、やっておいて損はないと思いますよ。」
そういえばこの姫は勉強ぎらいで家出したんだったな、と思い出す。
「女王陛下も心配してらっしゃいますよ。ではいっそのこと、このまま王子のことなど放っておいて婚約解消すればいいではありませんか。まだお若いのですし。」
「お母さまが心配? 私にりんごを持ってきた人が?」
「は?」
「メロンだったら帰っていたわよ、私。それなのになに? あのかったいりんご。喉に詰まっちゃったじゃない。」
「……。」
「お母さまがメロンを持ってくるまで言うことなんか聞かないわ。」
白雪姫はそう言って苺をぱくぱく口に運んでいる。
会話って難しいのだなあ、とドラキュラ伯爵は遠くを見た。
*
尖塔の中にある鏡の間、伯爵が白雪姫とのやりとりを女王に報告した。
「無理です、めんどくさいです。あと、あの時陛下がりんごではなくメロンを持ってくればすぐに帰っていたとおっしゃっていました。」
「たしかにメロンなら喉に詰まらせることはなかっただろうが季節がな…。それに王女がりんごを丸かじりするなど誰が思う?」
白雪姫ならやりかねませんが? という言葉はぐっと飲み込んだ。多分、鏡の精も飲み込んだ。
「先ほどもメロンを持ってくるまで陛下に会わないとおっしゃっていました。」
「まだ早春じゃ。」
伯爵はため息をついた。
甘い。女王は白雪姫に甘すぎる。
「王子と茨姫を我が国内で跪かせること。それは裏を返せばそれぞれの国を屈服させるに等しい。バード王国とバジーレ王国に攻め入る勢いですよ、あれは。」
「……せっかく平和に過ごしていたというのに。」
女王は眉間を抑えて頭を振った。
「バード王国とバジーレ王国の間にはどのような動きがある?」
女王が視線を動かすと、空気となっていた宰相が口を開いた。
「現在、バード王国にてロビン・フッドに調査をさせておりますが、今のところこれといった動きはありません。」
「ロビン・フッド? ちゃんと働いています?」
ドラキュラ伯爵が疑問を呈した。
「前金と成果をあげれば報奨金を渡すと言ってあります。」
ロビン・フッドは義賊なのでタダでは仕事をしない。だがいったん仕事に取り掛かればやり通す。
信頼できる男ではあるが、ムラ気があって粗暴なところがあるので、潔癖症のザ・貴族のドラキュラ伯爵は気が合わない。
「バジーレ王国の調査はこれからですね。」
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