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「ほう、名案ですね。では私はこれで。」
女王と宰相の会話を退屈そうに聞いていたドラキュラ伯爵が後ろに下がっていると鋭い声が響いた。
「待て、伯爵。」
「眠いんです!」
「それでだ。」
「聞いてますか?」
ドラキュラ伯爵は脱力した。
「ドラキュラ伯爵にバジーレ王国への使者を命ずる。宰相、準備しろ。」
「ははっ、直ちに書状を送りましょう。」
「……は?」
女王は玉座に深く腰掛ける。
「魔法の鏡の監視が行き届くのは我が王国内だけ。ドラキュラ伯爵、百年の眠りから覚めたバジーレ王国と折衝し、密偵と協力してこちらの陣営に引き入れてほしい。」
「イヤですーっ!」
伯爵は叫んだ。
「前にも言いましたが私は伯爵です。しかも官職にも就いていません。百年眠っていたとはいえ他国の国王にお目通りするのは畏れ多いことです。無理です。あっ、元王女の夫であるカラバ侯爵がいらっしゃるではありませんか! 陛下の義理の甥ですよ。」
「侯爵は貴族になってまだ浅い。私の名代なのだからそれなりの儀礼を知った者でないとな。それにそなたは茨姫が眠りにつく前から生きておるのだろう? 足りぬなら宰相補佐の地位か公爵位でも授けるか?」
「〜〜〜。他に人材がいないのですか、この国は!」
*
くったりと項垂れた伯爵が部屋を出た後、女王は窓辺に行った。
《あ、女王さま、見ない方がいいですよ。》
鏡の忠告に嫌な予感がした女王は庭を見下ろした。
七人の小人が『白雪姫が帰ってきた!』と遊びに来ていて大騒ぎをしている。
美しく整えられて花が咲き乱れる城の庭、青々と刈られた芝生の上で小人たちが太鼓を叩きラッパを吹き、踊り歌い、大騒ぎをしている。
そしてその真ん中で涙を流しながら大笑いし、足をばたばたして手を叩いている白雪姫。
《小人の家から帰ってこなかった理由がわかるような気がしますね。》
「……育て方が悪かったのか?」
《……。それにしても小人たちもよくこの城に来れますね。女王さまに挨拶もせず大騒ぎとは。》
「あれらとは長い付き合いだからな。お前を作ったのもあれらだ。」
《えっ、私のお父さんたちなんですか? まあ遺体を保存できるガラスの棺桶を作るぐらいですから魔法の鏡も作れますよね。》
女王は再び窓の下の白雪姫たちを見た。
あのように笑っている顔を見たのはいつぶりだろう。とにかく、笑顔になってよかったと女王は思った。
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