ドラキュラ登場

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 女王に夜中に呼び出され、ぐだぐだと言い合いをしているうちに夜が明けた。  * (本当に朝日を浴びても平気だ……。)  朝露に輝く庭に面した城の回廊には、柱にもたれて腕を組みため息をつく美しいドラキュラ伯爵の姿があった。    柱の間から差し込む朝日に少しずつ近づいてみたが、本当に灰になることはなかった。今は明るい陽射しが全身を照らしている。 (朝日を浴びるなど、いつぶりかな。)  *  ドラキュラ伯爵がまだ吸血鬼になる前。およそ二百年前のことだ。  父も母もいた。    暗黒時代と呼ばれたその時代は国家という枠組みがまだ不安定で、あちこちで覇権争いが起きていた。父が治めていた領地にも隣国が侵攻してきて激しい戦いの末に敗北した。  ヴラド・ド・ドラキュラは悪魔と契約して両親や領民の仇を取った。その戦いぶりは『血に飢えた串刺し公』と呼ばれ、人々に忌み嫌われるようになる。  悪魔と契約した体は不老不死となり、どれほど迫害されようとも死ぬことはない。例え朝日を浴びて灰になろうとも、激痛に耐えればまた復活してしまうのだ。 『串刺し公』と言われながらも守ってきた領民から「化け物」と恐れられ追い出された後は、公の場からは退いていた。しかし今は魔女も魔法使いも共存できる時代になり、ドラキュラ伯爵も社交界に戻ってきた。  * (……思い出さなくてもいいものを思い出してしまったな。)    ドラキュラ伯爵は頭を軽く振って思考を戻した。  そもそも白雪姫の母親である女王が言うことを聞かせればいいではないか。  ただでさえ白雪姫のウソで『継母』という噂が流布しているというのに放置して。  まあ大概の国民が女王の王妃であった時代も知っているし、白雪姫が生まれた時に盛大なお祝いもした。だからバレバレのウソであることも周知の事実なのだが。  女王は前国王が崩御した時に、まだ幼いディルク王子が成人するまでの間の繋ぎとして女王となり、その賢明さと魔法の力により国を治め、学校や病院も作って国民の生活を豊かにした。  そして夫が亡くなって何年経っても黒い喪服に身を包み、慎ましやかな生活をする姿で国民たちの尊敬の対象となっていた。  一方、白雪姫は自由奔放で勉強を投げ出して家出をし、嘘をついて小人たちの同情を買った挙句、他国に出て行った姫として有名になっていた。  もともと短気で癇癪持ちだった姫は、ヘッセン王子と喧嘩し帰国してからさらに手がつけられない状態になっていると言う。  そう考えるとバード王国で六年もおとなしくしていたのが不思議であるが、聞くところによるとヘッセン王子も負けず劣らず自由で好きなようにしているらしい。    気が合っていたのだろう。
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