カラバ侯爵登場

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「僕が行ってもいいんですけどね、一応親戚だし。でも僕がこの城に来る前に白雪姫はバード王国に行っちゃってたんで、初対面でなにを話していいかわかんないんですよね。で、挨拶だけでもって思ったんですけど、妻から『近づかない方がいい』となんか怖い顔で言われたんで猫に行かせようと思ったんですよ。でもこんな感じで近づこうともしないんですよね。で、どんな方なんですか? 白雪姫って。」 (よく喋るな。)   「うーん、そうですね……。」 「とても可愛らしい方ですよね。まるでお人形のようで。」 「見た目は……そうですね。」  ドラキュラ伯爵が言い淀んでいると、猫がひげぶくろを膨らまして耳を後ろに倒した。  そしてさらに目を細めて言った。   「猫はギラギラしている人間には近づかねぇんだ。奥さまの言うことはもっともだ。」 「ギラギラしているようには見えないんだけど? むしろ儚げな……。」  侯爵が首を傾げて猫に言うと、猫はわずかにしっぽを膨らませた。   「俺にはわかる。」    ひげぶくろといい耳といいしっぽといい、この猫は感情が表に出過ぎる。  ただ、目を細めすぎると少し笑っているようにも眠そうにも見えるのはご愛嬌。  侯爵は「ふうん、猫が言うのならそうなんだろう。」と独り言のように呟いて伯爵の方に向き直った。猫のおかげで侯爵まで登り詰めたので、猫には全幅の信頼を置いているようだ。 「まあ頑張ってください、伯爵。手伝えることがあれば言ってくださいね!」  カラバ侯爵は人懐こい笑顔で手を振りながら猫を従えて去って行った。    去り際に猫がこっちを振り返りながら「へっ」と笑ったのを伯爵は見逃さなかった。  カラバ侯爵は悪い人ではない。   (ただあの猫が!)  ドラキュラ伯爵はイライラする気持ちを抑えて中庭につながる回廊を進む。  遠くから噴水の涼やかな音が聞こえ、バラの香りが漂ってきた。  昔、カーミラと出会ったのは夜会を抜け出したこの庭園であったな、と懐かしく思い出す。もうかれこれ百年前か。  再び無意識に現実逃避をするドラキュラ伯爵だった。
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