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伯爵が目線が合うように片膝を立てて跪くと、白雪姫は身を起こした。
「ドラキュラ伯爵、なぜ朝に?」
「えーと、それは。……呪いが解けてですね。」
「まあ、それはよかったですわね。」
白雪姫はふふっと笑いながら伯爵を見やる。
白雪姫の棘のある微笑みに伯爵はほんの少し嫌悪感を感じながら、美しい笑顔を貼り付けた。
長靴を履いた猫の気持ちはよくわかる。これは本来なら近づいてはいけない事案だ。伯爵は「んんっ」と小さく咳払いをして話しかけた。
「三日前、突然帰国されたとお聞きしました。なにかございましたか? よければ相談にのりますよ。」
白雪姫は途端にスンと無表情になり、手に持った白い花を見つめながらつぶやいた。
「……コロス。」
「は……?」
「ああ、あなたのことではないのよドラキュラ伯爵。あの女のことよ。」
「……女?」
白雪姫はふん、と鼻を鳴らして再び寝そべった。
「あなたに言っても仕方がないことよ。」
「それは聞いてみないとわかりませんね。」
白雪姫は、またつまらなさそうに花をくるくる回していたかと思うと、なにか閃いたようににやっと笑った。
「いいわ、教えてあげる。」
愛らしいというよりは妖しい微笑みで見てくる白雪姫に対し、伯爵は寒気がする。
「茨姫よ。」
「……ああ、西の隣国の眠り姫ですか。その方がなにか?」
*
このヴィルドゥゲン王国に隣接する、白雪姫の婚約者のヘッセン王子がいるバード王国、その西隣に謎の小国、バジーレ王国がある。
バジーレ王国もまた、ヴィルドゥゲンに接しているが、その向こうの大国ルイーシャ帝国とも接しているため、中立国として細々と存続している小さな王国だ。
バジーレ王国では百年前に美しい姫が魔女に呪いをかけられた。それから茨の棘に守られた城の中では、国王から召使いに至るまで眠っていると言われている。
呪いをかけられた姫は別名『眠り姫』とも『眠れる森の美女』とも呼ばれているが、百年も経っているのと、王国は国王がいなくても平穏に栄えているのでもはや伝説と化していた。
ドラキュラ伯爵は一応二百年以上生きているので、リアタイで体験して実話だということは知っているが。
*
「茨姫がなにか?」
「私の王子を盗ったのよ!」
詳しく聞いてみると、白雪姫の婚約者であるヘッセン王子が『暇だから旅に出る』と言って一か月ほど留守にした後、茨姫を連れ帰ったのだと言う。
『茨姫を口づけで起こしたのだ』とドヤ顔で。
眠った姫を口づけで起こすのが趣味なのか。変態極まっているな、とドラキュラ伯爵は唖然とする。
「それはそれは……。」
なんと答えて良いのかわからない。
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