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プロローグ
濃紺のインクを流したような夜空に浮かぶ三日月を、たなびく雲が隠していく。
堅牢な二重の城壁に囲まれた広大な敷地の中に、壮麗な城とともに中世の面影を残した石造りの無骨な一画がある。その中で最も高くそびえる尖塔の中にある殺風景な部屋の中には、ほのかに青白い蝋燭の明かりがゆらゆらと広がっている。
*
「鏡よ鏡、この国で一番美しいのはだぁれ?」
その時雷鳴がとどろき、金の意匠で縁取られた豪華で大きな鏡の中に、ぼんやりと人のような影が現れた。
《それは女王陛下、あなたです。……と言いたいところですが、なぜ白雪姫が帰ってきているのですか?》
鏡の中の人ならざぬ者が言う。
「それよ…。」
女王は深いため息をつきながら額を指で押さえた。
「王子と喧嘩したらしい。」
《はい?》
「それはいいのじゃ。わらわもあの王子のことは良く思っておらぬからの。」
《姫も大概ですが?》
鏡が禁句を口にする。
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