幸せの選択

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それから3年が過ぎた。 昨日ニューヨークから帰国したと知らせてきた。 私は聖橋のたもとに立って彼を待っていた。 彼がやって来るのが見えた。 一回り大きくなったように見えた。 「やあ」 そう声をかける彼に 「本社勤務になったんですって?おめでとう」 なるべく明るく微笑んで私は答える。 「今日は君に贈りたいものがあるんだ」 嬉しそうに彼は言う。 「ニューヨークのお土産?」 そう言いながら、私は左手を口元にあてた。 その手を見つめて、ポケットをまさぐっていた彼の動きが固まった。 「けっこん・・・したの?」 私は黙ったまま。 できるだけ明るく微笑んだ。 「そうか・・・・・・」 涙がこぼれそうになる。 我慢、我慢。 「じゃ・・・これを贈ることは出来なくなっちゃったな・・・」 ポケットの中の彼の手が震えている。 「ごめんなさい」 涙が一粒こぼれてしまった。 「しあわせか?」 「ん・・・・・・しあわせよ」 「おめでとう……。ずっと、しあわせで、いてくれよ」 そういうと彼はくるりと背を向けて去って行った。 「あなたも、しあわせになって・・・・・・」 そう言いたかったが間に合わなかった。
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