幸せの選択

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父は会社を辞めて母を看護していた。 「どこか、病院とか施設とかに入らせて貰った方がいいんじゃないの?」 あまりにも過酷な父の様子を見て、そう進言したら、 「母さんがまだしっかりしていたころに、二人で相談して決めたんだ。できるだけ病院や施設ではなく、家庭で過ごすようにしようってね。母さんもそうしたいと言っていた。これは父さんと母さんの約束なんだ」 父はきっぱりと言った。 「でも、父さんが過労で倒れてしまわないかが心配だわ」 「ありがとう。でもね、父さんは苦労だとは思っていないよ。その日その日を母さんと無事に過ごせたら、ホッとしてね、これが父さんの幸せなのかもしれないな。自己満足かもしれないけどね」 そう言って少し寂しそうな笑みを浮かべて掌を見つめていた。 父さんが望んでいるのだから、口出し出来ることではないけれど、たまには温泉に浸かったりして、少しノンビリしてほしい。 母方の親戚が同族経営している会社の嘱託という身分で給与をもらっていたので、経済的な苦労がなかったのは不幸中の幸いだ。
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