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「綾の探しものは、このイヤリング? それともこの、僕の血がついたナイフ?」
夜の河川敷での出来事だった。
しゃがみ込んで草をかき分けていた私の後ろに、彼は立っていた。右手に血のついたナイフ、左手に白い貝殻のイヤリングを揺らして、にこにこと笑っている。
私は思わず、悲鳴をあげた。
「あ、亜紀……。なん……で」
目の前の信じられない光景に、全身の震えが止まらない。恐怖で頭が真っ白になる。
「ああ……。それとも、僕を探していたのかな?」
彼は、嬉しそうに微笑んでいる。その白いワイシャツには、汚れの一つも付いていなかった。
「なんで……」
「ん? どうしたの?」
「なんで、生きてるの……」
「あー、『さっき殺したはずなのに』って?」
彼は頭に手をあてながら、無邪気に答える。
「いやあ、今まで言ってなかったけどさ、僕、死なないんだよねえ」
いったい何を言っているのかが、理解できない。
「は…………?」
「っていうかさあ、落とし物多過ぎだよー。前からだけど、よく大事な物なくすし。イヤリングだけならまだしも、ナイフとか、あと……」
月明かりに浮かぶ、色白で整った顔立ち。その顔が、不気味に歪んで笑う。
「僕を置いていっちゃうあたり?」
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