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亜紀と私は一年前、婚活イベントで知り合った。
キレイな顔立ちと物腰の柔らかい雰囲気に惹かれ、私から声をかけた。私たちはあっという間に意気投合し、出会って一ヶ月後に交際を始め、その半年後には一緒に暮らし始めた。
彼はいつも優しくて、私のために何でもしてくれた。ケンカもほとんどしたことがない。
だけど、彼は次第にこんなことを口にするようになっていく。
「こんなの綾じゃない。君には消えてもらわないと」
私は、彼に命を狙われるようになった。
ベランダから落とされそうになったり、浴槽のお湯に顔を沈められたりした。
私はその度に「ごめんなさい」と謝りながら逃げまわって、家を飛び出すと実家や友達の家に隠れていた。
周りから「別れた方がいい」と言われ、自分でも毎回そう思っていた。でも、彼はいつも優しい言葉で謝罪の連絡をしてくる。
「ごめんね。もう、あんなことしないから……」
彼を好きな気持ちは簡単に消えなくて、こんなふうに謝られると信じたくなってしまう。つい許してしまう。だけど結局、同じことが繰り返された。
そして私はある日、散歩中の河川敷で、彼をナイフで刺してしまった。
彼は私を消そうとする時、優しい姿から豹変する。突然の襲撃から身を守るための、咄嗟の行動だった。
血だらけで動かなくなった彼を見たら恐ろしくなり、ナイフも彼もその場に置いて逃げ出してしまった。
夜になり、イヤリングを片方なくしていたことに気づいた私は、自分が犯人だとバレることが怖くなって、イヤリングやナイフを探しに河川敷へ出かけた。
だけどまさか、彼が生きていたなんて……。
それに、刺した時に血だらけだったはずの彼の服に、今は血の一滴すら見当たらないなんて。
この人は……人間じゃない…………?
そんなありえない考えが脳裏を過ぎった時、自分の運の悪さを呪いたくなった。
ナイフなんて、イヤリングなんて、探しに行かなければよかった。
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