3/7
前へ
/7ページ
次へ
 亜紀と私は一年前、婚活イベントで知り合った。  キレイな顔立ちと物腰の柔らかい雰囲気に惹かれ、私から声をかけた。私たちはあっという間に意気投合し、出会って一ヶ月後に交際を始め、その半年後には一緒に暮らし始めた。  彼はいつも優しくて、私のために何でもしてくれた。ケンカもほとんどしたことがない。  だけど、彼は次第にこんなことを口にするようになっていく。 「こんなの綾じゃない。君には消えてもらわないと」  私は、彼に命を狙われるようになった。  ベランダから落とされそうになったり、浴槽のお湯に顔を沈められたりした。  私はその度に「ごめんなさい」と謝りながら逃げまわって、家を飛び出すと実家や友達の家に隠れていた。  周りから「別れた方がいい」と言われ、自分でも毎回そう思っていた。でも、彼はいつも優しい言葉で謝罪の連絡をしてくる。 「ごめんね。もう、あんなことしないから……」  彼を好きな気持ちは簡単に消えなくて、こんなふうに謝られると信じたくなってしまう。つい許してしまう。だけど結局、同じことが繰り返された。  そして私はある日、散歩中の河川敷で、彼をナイフで刺してしまった。  彼は私を消そうとする時、優しい姿から豹変する。突然の襲撃から身を守るための、咄嗟の行動だった。  血だらけで動かなくなった彼を見たら恐ろしくなり、ナイフも彼もその場に置いて逃げ出してしまった。  夜になり、イヤリングを片方なくしていたことに気づいた私は、自分が犯人だとバレることが怖くなって、イヤリングやナイフを探しに河川敷へ出かけた。  だけどまさか、彼が生きていたなんて……。  それに、刺した時に血だらけだったはずの彼の服に、今は血の一滴すら見当たらないなんて。  この人は……人間じゃない…………?  そんなありえない考えが脳裏を過ぎった時、自分の運の悪さを呪いたくなった。  ナイフなんて、イヤリングなんて、探しに行かなければよかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加