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 彼はしばらく私を見つめた後、顔を包んでいた手をそっと離して穏やかに微笑んだ。 「君を消そうとして、何が悪いの? だって全部、綾のためだよ?」 「そんな……。私を消すことが私のためなんて、意味がわからな……」 「何言ってるの? 君は綾じゃない、よね?」 「は……? 私は綾だよ! あなたこそ何言ってるの……?」  ふたりの間を、夏の夜風がザワザワと音をたてて通り過ぎていく。いつの間にか月に雲がかかり、辺りは闇に包まれていた。 「僕が好きになったのは、いつもニコニコ笑う明るい綾だよ。だけど君はいつも暗くて自信なさげで、ネガティブで。綾が何かを頑張ろうとする度に付きまとって、『そんなのできるわけがない』、『諦めよう』ってささやくでしょ? 暗い綾なんて、綾じゃない。だから、消えてほしかった」  その曇りのない瞳は恐ろしいほどに綺麗で、どこまでも真っ直ぐに私を見つめてくる。 「明るかった綾を……返してよ。君が消えれば、僕の好きな綾は戻ってくるでしょう?」  どうして。  悪いのは、私なの?  だって、私とあの子は一心同体。あの子が傷つく姿を見たくない。  だから私は、あの子を守るために言い続けてきた。「自分にそんなことができるわけない」、「頑張るだけ無駄だ」って。  でも、そんな私の存在をあなたは認めようとしない。それどころか、いつだって消し去ろうとする。  だから私も、あなたを消そうとしたのに。あなたの中にいる、悪魔のあなたを。
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