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 でも、この人が不死身だとしたら、もうどうしようもない。また逃げまわり続けるか、彼におとなしく消されるかのどちらかを選ばないといけないんだろう。 「……そんなに消えてほしいなら」  ああ、なんだかもう……疲れた。  この人に怯えて逃げることも、期待して裏切られることも。 「消していいよ、私のこと」  彼は驚いたように目を見開いた後、いつもの穏やかな笑顔を浮かべた。 「ふーん。やっと僕の言うこと聞いてくれるんだ。よかった」 「ねえ、一つだけ教えて」 「何?」 「あなたは誰なの? どうして……死なないの?」 「僕がどうして死なないか? さっき、『死なないんだよね』って言ったけど、実は死んでるんだ。ちゃあんと」 「え……?」  近くに架かる橋の小さな街灯だけが、彼の姿をそっと照らす。暗闇に浮かぶその顔は、無邪気に笑っていた。 「僕は何人もいるんだ。夕方、ここにいた僕は君に消されたけど、また別の僕が出てきただけの話」 「な……」 「君は、君自身を消そうとする僕に消えてほしかったんでしょ? でも、残念。も、君に消えてほしい気持ちは同じだから」  そんな。もう、わけがわからない。  ふいに、彼の冷たい指先が私の首を優しく包んだ。思わず、体がビクリと揺れる。 「大丈夫。すぐに終わらせるから。……ごめんね」
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