6/7
前へ
/7ページ
次へ
 柔らかい両手に、グッと力が込められる。  ああ。私、消えるんだ。そう実感すると涙がこぼれた。 「……か……ッ」 「苦しい?」 「か、かな……し……」 「『悲しい』? そうだよね、もっと生きたいよね」  違う、そうじゃない。  あの子も綾、私も綾。  明るい綾も暗い綾も、どれもが全部「私」だ。「森谷綾(もりたにあや)」という人間だった。  大好きだったあなたには、「どんな綾も綾だよ」と受け入れてほしかった。どんな私も、認めてほしかった。否定しないでほしかった。  だけど「暗くてネガティブな綾」は今、こうして消されようとしている。  どの私もみんな本当で、ありのままの姿だった。  それを受け入れてもらえなかったことが、私という人間をちゃんと見てもらえなかったことが……悲しい。  ああ、でも私も彼のことを消そうとしちゃったし、人のこと言えないかな。私のことを消そうとする彼のことを、受け入れることができなかった。  相手の闇の部分を受け入れることって、想像より難しいのかもしれない。  だけど、少なくとも私は。 「す……」 「ん……?」 「す……き……」  こんなあなたを見ても、やっぱり好きだった。  嫌いになれなかった。最後まで。 「ありがと。僕も、明るい綾のことは好きだから」  やっぱり、私のことは受け入れてもらえないんだね。 「これでやっと、僕が会いたかった綾に会える」  好きだったよ、亜紀。バイバイ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加