12人が本棚に入れています
本棚に追加
柔らかい両手に、グッと力が込められる。
ああ。私、消えるんだ。そう実感すると涙がこぼれた。
「……か……ッ」
「苦しい?」
「か、かな……し……」
「『悲しい』? そうだよね、もっと生きたいよね」
違う、そうじゃない。
あの子も綾、私も綾。
明るい綾も暗い綾も、どれもが全部「私」だ。「森谷綾」という人間だった。
大好きだったあなたには、「どんな綾も綾だよ」と受け入れてほしかった。どんな私も、認めてほしかった。否定しないでほしかった。
だけど「暗くてネガティブな綾」は今、こうして消されようとしている。
どの私もみんな本当で、ありのままの姿だった。
それを受け入れてもらえなかったことが、私という人間をちゃんと見てもらえなかったことが……悲しい。
ああ、でも私も彼のことを消そうとしちゃったし、人のこと言えないかな。私のことを消そうとする彼のことを、受け入れることができなかった。
相手の闇の部分を受け入れることって、想像より難しいのかもしれない。
だけど、少なくとも私は。
「す……」
「ん……?」
「す……き……」
こんなあなたを見ても、やっぱり好きだった。
嫌いになれなかった。最後まで。
「ありがと。僕も、明るい綾のことは好きだから」
やっぱり、私のことは受け入れてもらえないんだね。
「これでやっと、僕が会いたかった綾に会える」
好きだったよ、亜紀。バイバイ。
最初のコメントを投稿しよう!