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「綺麗だね」
桜が咲き乱れる並木道を、彼と肩を寄せ合いながら歩く。暖かな木漏れ日と、繋いだ手の温もりが心地良い。
「幸せだなあ」
そうつぶやいて笑う彼が愛おしくて、私はその肩に頭を擦り寄せた。
「ねえ、亜紀は私のこと……好き?」
「もちろん。大好きだよ」
「ふふっ。私も」
カッコよくて優しくて、私のことを大切にしてくれる最高の彼氏。
だけど…………。
「亜紀は、私のどんなところが好きなの?」
「いつも言ってるけど、明るくて前向きで、僕だけを好きなところだよ」
「ふぅん」
だけど最近、なんだかつまらなくなってきちゃった。どこか薄っぺらくて、私の上辺しか見ていない彼のことが。
もっと刺激が欲しい。刺激のある恋がしたい。
「……私ね、実は最近、けっこうモテてるんだよ。私がもし、他の人のところへ行っちゃったらどうする?」
次の瞬間、今まで優しかった彼の顔が、鬼のようにグニャリと歪んだ。
「……許さない。僕以外の男へ行くとか。僕以外を選ぶ綾は、僕が好きな綾じゃないから」
「だとしたら、どうするの?」
「そんなの、綾じゃないから。消すだけだ」
「えーっ。何それ、こわーい。冗談だよお。本気にならないでよお」
ふふっと笑いながら繋いだ手を離して、私は小走りに先を行く。
振り返ると、彼はまだ怖い顔をしたままだった。
わかってないよね。何人消したって、意味はないんだよ。あなたが知らない私が、まだまだたくさんいるんだから。
私の綺麗な部分しか受け入れることができないなら、あなたにとって都合の良い私しか見たくないのなら、あなたはきっと永遠に幸せにはなれない。
「大丈夫。私はずっと、亜紀から離れないから」
いたずらっぽく笑ってみせた後、彼に近づいて少し背伸びをする。
悪魔のような冷たい唇に、愛を一つ、そっと落とした。
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