7/7
前へ
/7ページ
次へ
*** 「綺麗だね」  桜が咲き乱れる並木道を、彼と肩を寄せ合いながら歩く。暖かな木漏れ日と、繋いだ手の温もりが心地良い。 「幸せだなあ」  そうつぶやいて笑う彼が愛おしくて、私はその肩に頭を擦り寄せた。 「ねえ、亜紀は私のこと……好き?」 「もちろん。大好きだよ」 「ふふっ。私も」  カッコよくて優しくて、私のことを大切にしてくれる最高の彼氏。  だけど…………。 「亜紀は、私のどんなところが好きなの?」 「いつも言ってるけど、明るくて前向きで、僕だけを好きなところだよ」 「ふぅん」  だけど最近、なんだかつまらなくなってきちゃった。どこか薄っぺらくて、私の上辺しか見ていない彼のことが。  もっと刺激が欲しい。刺激のある恋がしたい。 「……私ね、実は最近、けっこうモテてるんだよ。私がもし、他の人のところへ行っちゃったらどうする?」  次の瞬間、今まで優しかった彼の顔が、鬼のようにグニャリと歪んだ。 「……許さない。僕以外の男へ行くとか。僕以外を選ぶ綾は、僕が好きな綾じゃないから」 「だとしたら、どうするの?」 「そんなの、綾じゃないから。消すだけだ」 「えーっ。何それ、こわーい。冗談だよお。本気にならないでよお」  ふふっと笑いながら繋いだ手を離して、私は小走りに先を行く。  振り返ると、彼はまだ怖い顔をしたままだった。  わかってないよね。何人消したって、意味はないんだよ。あなたが知らない私が、まだまだたくさんいるんだから。  私の綺麗な部分しか受け入れることができないなら、あなたにとって都合の良い私しか見たくないのなら、あなたはきっと永遠に幸せにはなれない。 「大丈夫。私はずっと、亜紀から離れないから」  いたずらっぽく笑ってみせた後、彼に近づいて少し背伸びをする。  悪魔のような冷たい唇に、愛を一つ、そっと落とした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加