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①
西桃園高校2年7組のクラスルームはざわついていた。
3学期当初に行われた、実力テストの返却だ。英・数・国、3教科の点数に一喜一憂する生徒たち。高校2年生もあと3ヶ月で終わる。この実力テストが進路決定の大きな資料となるのだ。
赤芝紅華は、3教科の点数を見る。無表情で、解答用紙をカバンに入れて、ロングヘヤーをかきあげた。紅華が、ふと右隣を見ると、小鈴万里子が解答用紙を見てうなずき、丁寧に折りたたんでいる。
「万里ちゃん、成績が良かったようですね」
紅華がほほ笑みながら、万里子に話しかける。
「うん。自分が思ってたよりは、良かった。アッキーは?」
万里子は、赤芝紅華の事をアッキーと呼ぶ。
「おそらく、クラスで最低ですわ」
紅華は、机に突っ伏しながら言った。
「え? 嘘だあ。アッキーは、授業中ちゃんとできてるじゃない」
「授業とテストは別。私は、テストって嫌いですから」
「え、アッキーって、好き嫌いでテストの点が変わるんだ」
「そうですね。テストって、何か一方的で面白くないじゃないですか」
紅華は、突っ伏したまま顔を左に向ける。眉間にしわを寄せて、歯を食いしばっている星野紗良がいた。明らかに心痛な面持ちだ。
机から頭を上げて、紅華は紗良に声をかける。
「紗良ちゃんは、あまり出来がよくなかったようですね」
紅華の言葉を聞いて一瞬ビクッとなる紗良だったが、急いで解答用紙をカバンにしまう。
いつの間にか、紅華と紗良の前に担任教師が立っていた。中年の男性教員だ。
「アッキーと星野は放課後、職員室にきなさい。ちょっと話したいことがある」
それだけ言って、教卓にもどって行った。
「なんだろう。私、なにか、しでかしたかしら……」
「成績のことだよ。アッキーも悪かったの?」
涙ぐみながら、紗良が聞く。
「悪いも何も、始めからテストなんてつまらないもの、やる気ありませんし」「でも、アッキーは実力あるもんね……。それに比べて私は……」
紗良は、大粒の涙を流していた。
「何言ってるの、紗良ちゃん。まだ2年生じゃない。勝負はこらからよ」
紅華の肩越しから励ます万里子。紗良は、俯いて両手で顔を覆った。
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