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②
放課後、先ず紅華が担任と職員室で話す。当然、実力テストの成績の事だ。
担任から脅しやら、発破をかけられる。担任の問いかけに紅華は、無表情で、
「はい」
と答えるのみだった。担任は、糠に釘、暖簾に腕押し的な徒労感におそわれた。
「もういいぞ。次はがんばれ」
「はい」
とだけ答えて、紗良と交代する。
紗良に対しても担任から発する言葉は同じだった。成績の事。進路の事。このままではだめだということ。終始うつむいている紗良。ここでも涙がにじみ出る。
「まだまだ、間に合うから3年になったらがんばれ」
担任の励ましに、言葉を発せず俯いてうなずく紗良だった。
力なく、教室にもどる。もう皆、帰宅や部活で、誰もいないと思ったが、一人だけ窓際で運動場を見ている生徒がいた。
「あ、アッキー」
「おかえりなさい。紗良ちゃん。わたし、担任に成績のことで、くどくどと言われましたわ」
「同じ……。今回の実力テストは、特に悪かったから、叱られた……」
「紗良ちゃんて、どのぐらいの成績なの? テスト何点だった?」
「3教科とも70点台……。平均75点ぐらいかな……」
「はあ、それで成績が悪いのですかあ? 私なんてこれですよ」
紅華は、今日返された実力テストの解答用紙を、紗良の目の前に広げた。
「英語15点、数学20点、国語18点……。これ本当? アッキーって頭いいのに」
「まあ、私は楽しければそれでいいので、テストの良し悪しなど興味ありませんの」
「すごいよね、アッキーは吹っ切れてて。でも、ちゃんとやればアッキーはいい点を取ると思うし。私は、勉強しても成績が落ちる一方だから……。もうどうしていいか分からない……」
手で顔を覆う紗良。
「そうとう、まいってるのね」
優しく声をかける紅華。
紗良は力なくうなずく。
「じゃあ、ここから消えちゃいますか?」
紅華が、薄笑いを浮かべながら、ささやく。
「できれば、そうしたいよ。テストなんてない所に行きたい」
「そうですか、紗良ちゃんが望めば、きっと行けますよ」
紗良は、紅華の視線を感じる。優しく微笑んでいるが、焦点が合っていないように見えた。
「え? いや、冗談だし。慰めてくれてありがとう」
「じゃあ、また明日ね。さようなら」
紅華は、何かを思い立ったのか、急ぐように通学用のリュックを背負って、教室を出る。その早業に、呆気にとられる紗良だった。
何? あの急ぎよう……。
紅華が去った廊下の向こうから声が響いた。
「きゃはははは」
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