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私があなたを消したのは、あなたを愛すよりも自分の掟を愛したかったからだ。
私はあなたのことを、とても愛していた。
あなたのひどく優しいところを愛していた。
いつでも微笑みかけてくれるあなたの眼差しを愛していた。
いつでも助けてくれるあなたの手を愛していた。
自分にはない独創的なあなたの思考を愛していた。
あなたと一緒にいる時間が好きだった。
あなたのことを想う時間が好きだった。
あなたを愛している自分が好きだった。
あなたに愛されている自分が好きだった。
ーあなたのあの言葉だけが、嫌いだった。
あなたのすべてを、愛することが出来ると信じていた。
すべてを愛さなければそれは愛ではないと思っていた。
その言葉を愛せば、私たちは愛で繋がれると確信していた。
私はその言葉を観察した。
その奥にある意味を見つけ出そうとした。
愛せる意味を見つけて、あなたのすべてを取り戻そうとした。
深層への探求は、いつしか偽物の意味を作り出した。
偽物の意味は、偽善の愛情を私に与えた。
私はそれを口の中に入れて、その苦味に気付くまいと唾液を絡めて、自分に毒を侵させた。
いつしか愛は、毒へと姿を変えていた。
私は毒を拒んだ。
受け容れられないと、美しいままでいたいと、腐った林檎を吐き出した。
私はあなたを、拒絶した。
結局、私はあなたのすべてを愛することが出来なかった。
だから私はあなたを消した。
そしてあなたは、私から消えた。
腐った林檎は、いまも私を、揺蕩っている。
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