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山間に囲まれた湖面が青々と透き通るような空を映し出している。
かつては暴れ川で有名だったはずだけど、湖となった今では穏やかに悠然と佇んでいた。
この地はもう、記憶の奥底に眠らせていた風景とも気配ともまるで重ならない。
持ってきた花束をそっと湖面に浮かべる。
心残りがあるとすれば、この水底に眠る母を連れ出すことができなかったことだろうか。
約30年前、僕が生まれてから間もなく母は亡くなった。
美しい人だったと聞く。それ故に、長く生きることが叶わなかったと。
湖面に浮かべた花束が、すっと吸い込まれるように水底へと吸い込まれていった。
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