親友の自叙伝

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 仕事を終え、アパートの自室に帰宅した私はパソコンを立ち上げる。  リンクから小説投稿サイトに行き、ログインをする。  アカウントとパスワードは保存しているので、あとはエンターキーを叩くだけ。  まだ投稿していない小説の一番上に「小野文香」の名を見つけ、私は小さくため息を一つついた。更新順に表示されるよう設定しているので、つまりこの「小野文香」を私はせっせと更新したと言う事だ。  その最終更新日時は私が帰宅するほんの三十分前で、私は弄った記憶もない。  昨日も一昨日も更新されていた。 「律儀なことで」  言いながらその小説のページを開く。  すると、本文に急に文章が現れた。 「当然でしょ」  一言、そう書かれている。 「自叙伝なんだから、私をつづっていかなくちゃ」 「なるほど、ただいま文香……」  私がそう言うと、分かればいいのよ、お帰りなさいと書かれた後で、会話部分が消えた。  そのまま残していては、本文が無茶苦茶になるからだろう。  要するに、この作品が意思をもって私に語り掛けていたのだ。  なぜならば、この小野文香こそが私の親友、小野文香そのものだからだ。  別に私の頭がおかしいわけではなく、本当に数か月前まで彼女はれっきとした人間だった。  本当に唐突だった。 「私、自叙伝になる!!」  私のスマホにそんなメッセージが飛んできた。  自叙伝を書くの間違いだろ、と私が思ったのも無理はないと思う。
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