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伸明も、また、ナオキと一緒だった…
「…そんなこと、どうでも、いいじゃないですか?…」
と、笑って言った…
「…それとも、長谷川センセイは、失礼ながら、お医者様だから、例えば、看護師の方たちが、自分より、威張っていれば、許せませんか?…」
「…それは…」
「…寿さんが、ボクに対して、どんな態度を取るにせよ、寿さんに、悪気はないのは、わかってます…長谷川センセイも、それは、ご承知でしょ?…」
「…それは、もちろん…」
「…だったら、いいじゃ、ないですか?…」
伸明が、明るく言った…
伸明が、あっけらかんと、言った…
そして、私は、これこそが、お坊ちゃま…
お坊ちゃまゆえの性格の良さだと、思った…
が、実際には、違うのかも、しれない…
ただ、生まれつき性格が、良いだけなのかも、しれない…
だが、どうしても、伸明が、金持ちのお坊ちゃまゆえに、金持ちと性格を、結びつけてしまう…
金持ちゆえに、苦労していない…
だから、性格がいい…
そう思い込んで、しまう…
そして、そんなことを、考えると、
…だったら、自分は、どうだ?…
と、思った…
自分、矢代綾子は、どうだ?
と、思った…
寿綾乃では、ない…
まだ、寿綾乃と名乗る前の、矢代綾子と名乗っていた時代は、どうだ?
と、思った…
すでに、何度も言ったように、私は、母と二人暮らしだった…
いわゆる、母子家庭だった…
ゆえに、生活は、楽ではなかった…
が、
だから、私は、性格がねじ曲がっている?
と、人から、指摘されれば、全力で、反論するが、本当のところは、わからない…
自分で、自分の性格は、決して、悪くないと、思っているが、それは、自分の評価…
あくまで、自分の評価に過ぎない…
他人の評価では、ないからだ…
そして、評価というのは、常に、他人が、するものだからだ…
自分が、自分にする、自己評価は、常に、得点が高い…
誰もが、自分のことを、悪く言う人間は、いないからだ…
だから、得点が高い…
そういうことだ(爆笑)…
だから、わからない…
自分のことは、わからない…
が、
だとすれば、どうしたら、自分のことが、わかるか?
考えた…
友達だ…
あるいは、付き合っている異性…
過去、現在、付き合っていた異性…
男なら、女…
女なら、男…
いずれにしろ、自分の周りにいる人物…
その人間が、どんな人間と付き合っているかで、その人間の性格が、見えてくる…
学校でも、会社でも、同じ…
おとなしい人間は、おとなしい人間とつるむ…
つるむ=いっしょにいる…
真逆に、ヤンキーは、ヤンキーとつるむ…
その方が、気が合うからだ…
その方が、楽しいからだ…
だから、いっしょにいる…
当たり前のことだ…
それゆえ、その人間の性格が見えてくる…
その人間が、どんな人間か、見えてくる…
そして、これは、友人同士でなく、男女の間も同じ…
いっしょだ…
だから、一見、おとなしそうに見えても、選んだ異性が、ヤンキーだったりする場合は、ホントは、おとなしくないのだろう…
そういうことだ…
また、一見、おとなしく見えても、いろいろなタイプがある…
おとなしく見えても、学校や会社で、つるまないのは、タイプが、微妙に違うから…
これは、ヤンキーもまた、同じ…
同じだ…
例えば、色でいえば、赤…
同じ赤でも、真紅なのか、桃色に近いのか、あるいは、オレンジに近い赤なのか?
いろいろある…
それと同じだ…
性格が、微妙に違う…
だから、一見似ていても、合わないのだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなさまざまなことを、私、矢代綾子に当てはめれば、どうか?
考えた…
すると、一番、わかりやすいのは、目の前の伸明とナオキ…
二人とも、真面目で、おとなしい…
だから、私も真面目…
真面目で、おとなしいキャラで、間違いが、ない(爆笑)…
いや、
そもそもだが、五井の当主や、ナオキのように、IT企業を創業した社長が、真面目で、おとなしくないはずがない…
おおげさに言えば、少年院や刑務所に行きかねないような、バリバリのヤンキーが、名門の企業グループの御曹司や、IT企業の社長のはずは、ないからだ…
とりわけ、名門の企業グループの御曹司というのは、ありえない…
あるいは、百歩譲って、名門の企業グループの御曹司が、バリバリのヤンキーだったとする…
そうなれば、どうするか?
真っ先に、後継者の座から、外すだろう…
対外的に、その企業を象徴する座につけることはできないからだ…
例えば、わかりやすい話、天皇陛下を思い浮かべれば、いい…
天皇陛下は、日本を代表する人物…
その天皇陛下が、ヤンキー上がりでは、たまったものではない…
とてもではないが、他国に、紹介することは、できない…
なぜなら、ヤンキー上がりは、すぐにバレるからだ…
それと同じだ…
伸明のように、五井家の当主は、天皇陛下と、同じ…
天皇陛下が、日本を象徴する人物のように、伸明は、五井を象徴する人物…
だから、仮に伸明のような立場の人間になるので、あれば、ヤンキーでは、なれない…
一族が、排除するだろう…
それと、同じだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、伸明が、
「…たぶん、藤原さんは、今、和子叔母さまの元にいると、思います…」
と、言った…
私は、一瞬、
…エッ?…
と、思った…
まさか、伸明が、和子の元にいるとは、思わなかった…
が、
しかし、だ…
さっき、この伸明は、和子が、ナオキの会社、FK興産の買収の買収を仕組んだと、言ったではないか?
そして、おそらく、それは、事実に違いない…
そして、事実なら、ナオキが、和子の元にいるのも、頷ける…
和子が、拘置所から、出た、ナオキの面倒を、見るのも、わかる…
ナオキが、和子にFK興産の株を売却した見返りに、ナオキの面倒を見たのだろう…
そういうことだ…
私を含め、FK興産の中で、すぐに、拘置所の中にいるナオキに対して、弁護士を派遣したり、拘置所から出たナオキに対して、クルマの用意をしたり、その先の手配をしたり…
具体的には、ナオキが、当面、身を隠す場所をすぐに手配できるような、やり手の人間は、思いつかない…
ハッキリ言えば、FK興産内で、すぐに、そんなことのできる人間は、思い浮かばない…
それは、別に、FK興産内の人間が、使えない人間が、揃っていると言っているわけでは、断じてない…
要するに、門外漢というか…
そんなことを、する人間がいないのだ…
従業員を千人も擁する会社だ…
当然、顧問弁護士もいる…
が、
今回のように、ナオキが、脱税の疑いで、逮捕され、マスコミの餌食になっている…
この状況で、うまく、マスコミを懐柔したり、なるべく、ことを荒立たせずに、穏便に済ますというか…
そんなことのできる人間は、一人もいないということだ…
顧問弁護士にしても、FK興産と契約している顧問弁護士は、当然、会社関係の業務を主として、契約している…
それが、今回のように、脱税の疑いで、逮捕されたのは、想定外…
いわば、畑違いの分野だからだ…
畑違いというのは、通常、弁護士にしても、専門業務がある…
いわゆる、刑事事件を主に担当しているか?
あるいは、民事事件を主に担当しているか?
さらに言えば、民事事件でも、離婚のような件を、主に扱っているか?
大きな会社と契約して、会社の運営に対して、意見を述べているか?
など、千差万別だ…
だから、今回のように、ナオキが、思わぬ形で、マスコミの餌食になった…
その窮地を救うことのできる弁護士は、FK興産内では、誰も、いないということだ…
そして、そんなことを、私は、考えていると、伸明が、
「…和子叔母さまは、藤原さんに、すまないと、思っているんだと、思う…」
と、伸明が、言った…
「…すまない? …どうして、すまないと、思っているんですか?…」
「…FK興産の買収の件です…」
「…それが、どうして、すまないと、思っているんですか?…」
「…寿さんは、知っているか、どうかは、わかりませんが、FK興産は、だいぶ前から、経営が、うまくいってなかった…」
「…」
「…それで、藤原さんから、個人的に、相談されたのが、きっかけです…」
伸明が、言う…
私に対して、申し訳ないというような態度だった…
なにやら、私に対して、下手に出ている感じだった…
私に対して、隠しごとをしていたのが、心苦しいのかも、しれなかった…
いや、
私に対してでは、ない…
おそらく、ナオキが、私に対して、言ってないことを、伸明が、自分の口から、告げるのが、マズいと、思ったのだ…
この伸明は、私とナオキが、公私共に、パートナーであったことを、知っている…
にもかかわらず、ナオキが、私に言ってないことを、自分の口から、告げるのは、マズいと、思ったのだろう…
普通は、まず、結婚していれば、夫が、妻に言うべきこと…
それを、妻に第三者が、言うのは、まるで、告げ口をしているような…
とにかく、夫を差し置いて、第三者の自分が、言うべきではないと、伸明は、思ったに違いなかった…
だから、遠慮がちというか…
言いづらそうに、私に言ったに、違いない…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
すると、だ…
「…そんなに、FK興産の業績は、悪かったんですか?…」
と、これも、遠慮がちに、長谷川センセイが、口を挟んだ…
黙って聞いているのが、嫌だったに違いない…
が、
本当は、ここで、門外漢の長谷川センセイが、口を挟むのは、おかしい…
が、
しかしながら、ここにいるのは、三人だけ…
私と伸明と長谷川センセイの三人だけだ…
だから、つい、口を挟んだのかも、しれない…
伸明は、長谷川センセイの質問に、曖昧に、
「…ええ…」
と、短く、答えた…
すると、長谷川センセイが、
「…そんなに、ひどかったんですか?…」
と、さらに、突っ込んだ…
すると、今度は、伸明が、
「…藤原さんは、資金繰りに苦慮していたが、それでも、会社が、傾くとか、今すぐ、どうこうなる話じゃなかった…」
「…では、どうして?…」
と、長谷川センセイ…
「…会社経営に疲れたんだと、思う…」
伸明が、言った…
<続く>
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