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3 アルファたちはキラキラ
(もしもサクちゃんが大きくなってたらあんな風にキラキラしてアルファの世界で生きてたのだろうか?)
会場中央に集まる人達に目を向ける。
この会場内には天井から飾られたシャンデリアよりも輝くキラキラとしたオーラが溢れている人がたくさんだ。たまに普通の人が紛れているのが会場外の世界と比率が逆転していて面白い。
(アルファだなぁ)
高身長に色気漂うイケメンというモデルのような男性。その横には自分の美しさを理解しているのが振る舞いからわかる高身長ど迫力の美人。アルファというのはたいてい見目も良く振る舞いも堂々としている。男も女も押し出しが強い。対してオメガというのは男だというのに『かわいらしい』『小動物』『守ってあげたい』と言う形容詞が似合う体躯のものが多い。まあ僕のように地味でパットせずしかも身長だけはひょろひょろと伸びてしまった例外もいるわけだけども。
概してオメガは庇護欲、性欲を掻き立てる外見のものが多いのだ。
(そう、あんな風に)
僕の視線の先には色素の薄い黄金糖みたいな髪をした色白の少年がいた。婚活パーティに来ているのだから未成年ということはないだろうけど彼はとても幼く見えた。西洋のルネッサンス期に描かれた天使のようなふんわり柔らかなカールした髪が包む小さな顔。会場の熱気のせいかほんのりと赤い頬がかわいらしい。回りのアルファと思われる人達もどうみても年若なオメガである彼に興味津々といった体だ。
だいたいアルファなんてほっておいても結婚相手の見つかる勝ち組層が多いのだ政府主催の婚活パーティにくるような人は自分で探すのがめんどくさいという人物かそれか……
(それか二号さんを求めているのか)
婚活パーティとは言うけれど少子化に業を煮やした政府はアルファの相手がオメガの場合に限り重婚も許している。アルファやベータの正妻が跡取りとなる子供を産めない場合にオメガの第二夫人が迎え入れられるってこともよくある話だ。今回のパーティの参加者にそういった既婚者が紛れ込んでいる可能性は高い。
(跡取りを産んだあとに第二夫人が放り出されたなんて話もよく聞くけども)
暗い想像が僕の脳裏をよぎった。やや固さのみえる笑顔でまわりと話している彼、それと周りを改めて見比べた。なんだか彼は周りのキラキラオーラの人よりもっとキラキラと輝いて見える。愛されオメガのオーラだろうか。不思議と目が離せない。
(彼には二号さんは似合わないな。隣りにいる彼はかっこいいけど気が多そうだし。向かいの女性は気が強すぎて彼を萎縮させそう。あそこの彼は年が釣り合わない。もっと彼が自然と笑顔になるような相手がいいな)
初めて見たはずの彼なのにどうしても幸せになって欲しいなと思う。長く見すぎたのだろうか彼がこちらを見た。僕は慌ててよそを見た。
視線をそらしていた僕はその時彼の口元が弧を描いたのを見なかった。
***
司会者が上手の壇上で始まりの挨拶をしている。
30分ほど雑談タイムを設けているので自由に飲食しながら交流を深めてください。とのことだが僕みたいなのには苦行でしかない。話しかけられないようにせいぜいビュッフェの食事にがっつくことにした。
とりあえず会場に来たことは受け付けで名前を告げたことで証明できる。出会いがあろうがなかろうが義務は果たした。あとは家に帰ってご飯を食べる必要がないように務めるのみだ。
30分後壇上ではじまったビンゴ大会を眺めながら僕はぼけっとしていた。
雑談タイムをひたすら飲み食いで乗り切った僕のお腹はもうパンパンだ。
話しかけないでオーラを出していたのに何人かには話しかけられてビールを注がれた。ビールはあんまり好きじゃないから少しだけ頂いたけど。
(そういえば話しかけてきたのはベータのおじさんというかおじいさんばかりだったな)
水分も存分に入った僕のお腹からは動くたびにチャポンチャポンと音がする。
(まあアルファらしいアルファにモテる外見ではないからあの人達も気を使ってくれたんだろうけど)
だまって壇上をみていると眠気が襲ってきた。
ハイテーブルに肘を置いて体を支える。重たいまぶたを必死に持ち上げて見渡した会場内ではきらきらしいアルファと可愛らしいオメガがきゃいきゃいとビンゴゲームに興じている。さっき見かけた可愛らしい彼は紙を真剣に見つめている。
僕の視線に気づいたのかこちらを見てにこりと会釈をくれた。僕も嬉しくなって会釈を返した。人見知りの僕には珍しくスムーズなコミュニケーションがとれたと思う。
そんな彼にとなりのアルファらしき男性が話しかける。二人でクスクスと笑いあっている。
(楽しそうだなぁ)
世の中には何でもできる才能の塊みたいなアルファがいる。
オメガって第二の性に生まれついただけで優秀な人だってたくさんいる。
そんな人は抑制剤を飲めば発情期も働けるようになって、ベータの人からの認識はオメガは得体の知れないものから身近な同僚になって昔ほどオメガ差別はなくなってきた。
皆違って皆いい。ダイバーシティってそういうものだよね?
そして僕みたいに何にも出来ないオメガがいる。
抑制剤の効きが悪い体質ってものに生まれついた僕は、発情期になるとどうしようもなくて。
周りに迷惑を掛けてしまう。今度こそ大丈夫だって思った職場に限って急に発情期になってしまって大惨事を引き起こしかける。
(人に迷惑しかかけられない僕が唯一役に立てると思ったのに……)
眠気に負けて目を閉じた僕の瞼の裏にはあの日僕の失敗を告げた文言が浮かんだ。
『検索対象に合致する結果はありません』
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