ふっさんとジャズポップコーン

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「……可笑しいわ。ホラーものだと聞いてたのだけど……やってること飯テロコメディじゃない!」 そう言うと、二口女のふっさんはストロベリーブロンドの髪をガシガシと掻くと口にポップコーンを詰め込んだ。 「ふっさん落ち着いて。旅番組かってくらいにグルメ要素は濃いし内容もかなーりB級コメディぽく見えるけどさ、ちゃんと怖いよこの映画……色んな意味で」 何も一から十まで悪いわけではない。少なくとも途中までは良かった。ストーリー自体は呪われたヒロインの高校生を霊媒師が救うって言うありきたりなもの。 途中までは呪いを祓うシーンがあったり、ヒロインも怯えた表情で震えていたりでテンプレながらもそれなりに臨場感はあったし、なにより理解ができた。 それがエキストラの口裂け女とテケテケが登場した辺りから可笑しくなったというかコメディ要素が強くなったと言うか。一言でいえば『わけがわからないよ』だ。 羽釜を抱えた怪異二人が艶々の米を見せつけると呪いの本体の呪霊が滅され、ヒロインが結果的に助かる。この時点で展開の速さに最早理解が及ばなくなったのだが問題はその後。 何故かヒロインが霊媒師を助手席に乗せ、ターボばあちゃんと峠を攻め始めたとこに関しては全くわけがわからなかった。てか臆病設定どこ行った。 「そもそも私怪異だし出演してるのが友達だしでツーアウトなのに途中で出てくる料理がやけに美味しそうなの……ほんとなんなの!? このうな重とか絶対特上よね、それにさっきの牡蠣も大きかったし……羨ましいっ!」 血涙を流しそうになりながらも画面から目を離さず、絶えず口にポップコーンを運ぶふっさんを見てふと疑問が浮かんだ。 「ねぇ、ふっさん。前から気になってたんだけどさ」 「なぁに?」 「いや、普通に前の口で食べてるけどアイデンティティ的に大丈夫なの?」 「だいぶ不味い……けど、やっぱ前の口で食べた方が美味しいじゃない」 「いや、私前しか口ないから分かんないって」 「それに、後ろの口で食べると髪が汚れるし……何より暴飲暴食は肌荒れの原因になるって言うじゃない。だから後ろの口にはちょっと我慢して貰うことにしたのよ」 「ふっさん肌荒れとか気にしてたんだ」 「そりゃ気にするでしょ。Webで口裂け女って調べたら山姥って出てきたのよ。ほんと失礼よね。こっちの認識ではピチピチの山ガールだってのに」  そう言われ『二口女』と検索するとがっつり『山姥』と記載されていた。 「あー、たしかに。言われてみれば山姥っておばあさんのイメージだしふっさん的にはアウトなんだね」 「当然アウトよ……それはいいとして。ほんとお腹空くわねこの映画。せっかくダイエット始めたのに手が止まらない。これだから飯テロはテロなのよ」 そう悪態をつきながら栗鼠のようにポップコーンを頬張るふっさんに苦笑しつつ、私はジャズポップコーンを片手にキッチンへ向かった。
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