745人が本棚に入れています
本棚に追加
真昼の発した「残念ね」が気に障ったのか、田村龍彦は逆上して畳から立ち上がり三人を見下ろした。
「おまえなんかとセックスしたって子どもは出来ねーよ!」
「どう言う意味よ!」
「濡れねぇしなんも言わねぇ!」
「や、やめてよ!」
「つまんねぇ女!」
「ーーーーあっ!」
そう怒鳴り散らした龍彦は足を滑らせた。
「いっ、て」
いや、政宗が龍彦の脚を蹴り上げ、その上半身が畳の上に音を立てて沈んだ、それが正しい。
「い、いって!お!い!」
政宗は龍彦の腹に馬乗りになって襟元を掴み上げ無言でその片頬を拳骨で殴り続けた。拳に龍彦の頬骨がめり込んだ。
「や、やめろ!政宗!政宗やめろ!」
竹村誠が政宗の両脇を抱えて引き剥がそうとしたが微動だにしなかった。
「ーーーーやめろ!」
政宗の拳は龍彦を殴り続けた。
「もういい!政宗!やめろーーー!」
「叔父さん!」
政宗は自身が真昼に田村龍彦を紹介した事を悔やんでいた。その怒りが爆発し、衝動のまま龍彦を殴り付けたのだ。
「真昼、頼む」
「うん、わかった」
政宗はリビングの床で胡座をかき、真っ赤に腫れた拳を保冷剤で冷やしていた。目の前には心配そうな真昼の顔があった。
「悪かった」
「びっくりした」
「俺も驚いてる、兄さんを止めに来た筈がこの様だ」
「痛くない?」
「痛いに決まってるがよぉ」
冷静になった政宗はガックリと肩を落とした。
「龍彦はどーーしたよ」
「生きてるよ」
「傷害致死になるのか」
「死んでないから、傷害罪くらいじゃない?」
「なんか壊したか」
「あーーーー座敷の花瓶が割れて、あと座卓の脚が折れていたかな」
「器物損壊かーー、まじかーー」
真昼は悪戯めいた笑顔で政宗の顔を覗き込んだ。
「お父さん、田村のお義父さんにギャンギャン噛み付いてた」
「そうか、怖ぇな」
「結婚前から騙されたのかーー」
「俺が悪い、もっと調べておけば良かった」
「5年も前から不倫とか最悪」
「最悪だな」
温くなった保冷剤が新しい物に取り替えられた。気持ちが良い。
「暴力沙汰にしちまって悪い」
「叔父さん」
「なんだ」
「慰謝料請求額500万円、高いかな」
「一年間100万円と考えればそれも良いんじゃねぇか」
「でね」
「なんだ」
「慰謝料を350万円に減額したら、叔父さんがたっちゃんを殴った事は忘れるって」
「出来るのかよ」
「させるってお父さんが息巻いてた」
「・・・・・兄さんらしいな」
「早速、念書を書かせてたよ」
「帰りに龍彦の首に縄でも付けて公証役場に行くか」
真昼は大きく背伸びをして微笑みながら振り返った。
「これで離婚成立」
最初のコメントを投稿しよう!