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真昼は政宗の目の前で離婚届を書き印鑑を捺した。証人は政宗と叔母に書いてもらう事になった。
「おう、龍彦に離婚届書かせてくるわ」
「ありがとう」
「帰りに市役所に出して来るか」
「忙しいわね」
「善は急げだ」
真昼はリビングテーブルの上に凪橙子の結婚指輪を置いた。
(ーーーーー終わった)
そして印鑑や通帳、保険証書など必要最低限の物をまとめて車に詰め込んだ。
「おい、真昼、この婚礼道具如何するんだ」
「処分してもらう」
「勿体ねぇなぁ」
「良いの!」
「おい、真昼、このスーツ如何するんだ」
「如何しようかな」
「シャネルだぞ」
「メルカリに出品しようかな」
「勿体ねぇなぁ」
「良いの!」
白檀の香りが染み付いた物になんの未練もなかった。
数日後、必要な荷物を運び出した真昼はけじめとして色留袖を着て座敷の畳に指を突いていた。
「お義父さん、お義母さん、お世話になりました」
「ま、真昼」
「さようなら、たっちゃん元気でね」
真昼の色留袖の袖は淡緑の濃淡、ごく細い黄土の線で描かれた撫子の花弁はまるで糸を紡ぎ合わせた産着、その花は生成りに近い白地に渋いピンク色で染められていた。
清々しい秋晴れ、田村真昼は竹村真昼として第二の人生を歩み始めた。
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