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「何話してんだろう?」
「さぁな。なんか楽しそうだけどな」
女性二人の会話が気になり、弘人が近付こうとしたが咲良に目で牽制され、あえなく撤退する事になり、男二人は離れた所から見つめていた。
実際、叶と咲良はたいした事など話している訳ではなかった。
「叶さんは何処から来たんですか?この辺の人じゃないですよね?」
「京都からよ。この辺の人間じゃないってすぐに分かったんだ?方言かな?気を付けてるつもりなんだけど」
「あ、違いますよ。ここら辺は海があるだけで基本田舎だから地元の人間なら見た事あるな、ぐらいになるんですよ。特に叶さんぐらい美人がこの辺にいたら一度ぐらい見かけると思うんですよ。でも私は今日初めてお会いした。あとは直感、女の勘です」
「ふふふ、なるほどね。あと咲良ちゃん、倉井君の事心配してるみたいだけど、何か特別な想いがあったりするの?」
「へ?私が?幸太君に?ははは、無い無い。私の彼氏はあっちで幸太君の横にいる金髪の奴です。弘人っていうんですけどね――」
幸太を心配し、叶がどのような人物が探ろうとしていた咲良だったが、いつしか話は咲良の愚痴や小言になっていた。それでも叶は笑顔で咲良の話を聞き、頷いていた。
そんな時、不意に弘人が近付き話し掛ける。
「咲良、俺いい加減腹減ったんだけど」
咲良の背後に立ち、弘人は少し困った様な顔をしている。弘人の言わんとしている事を察した咲良は慌てて支度をし始めた。
「あっ、ごめん。弘人休憩まだだったんだ。叶さん、ごめん。続きはまた今度」
咲良は席を立つと、急いで片付け、駆け出して行った。咲良が戻って来ない為、ずっと休憩出来ずにいた弘人はようやく自分のまかないを持ち、裏へと歩いて行った。
店内には客が数組残っていたが慌ただしさは感じられず、落ち着いている。
叶は飲んでいたウーロン茶のカップを持つと席を立ち、そのままゆっくりと幸太の元へと歩み寄る。
「ご馳走様。おかげで有意義な時間を過ごせたわ。倉井君はもう少しバイトかな?」
「あ、はい」
「じゃあ私はそろそろおいとましようかな。バイト頑張ってね倉井君」
そう言って店を後にしようとする叶を見て、咲良が慌てて駆け寄る。
「叶さん、帰るんですか?」
「ええ、だってこのままいても邪魔になるだろうし」
「楓さん。営業時間あと二時間ぐらいですよね?幸太君もう上がってもらってもいいですか?後は私と弘人でやるんで」
咲良が椅子に腰掛けていた楓に尋ねると、楓は少し驚いていたがすぐに笑みを浮かべた。
「ええ、まぁいいわよ。初日からだいぶ忙しかったし幸太君も少し早めに上がって体を休めてもらっても」
「ありがとうございます」
咲良が楓に深々と頭を下げると、すぐに幸太の方へと向き直る。
「ほら、幸太君今日はもう上がっていいって。叶さんも帰るらしいし送ってあげなよ」
「え、いや、でも――」
「でも、じゃなくて!この辺変な男もいっぱい彷徨いてるんだからちゃんと送ってあげてよ」
咲良は戸惑う幸太を無理矢理上がらせ、叶の元へと押しやる。突如店から無理矢理出された二人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「はは、なんかすいません。送る流れになっちゃって」
「ふふ、いいわよ、送りたくなかったら無理に送らなくても。別に一人ででも帰れるから」
そう言って叶は笑っていた。しかしそれはそれまで見せていた笑みとは違い、強いて言うなら少し悪い笑みに感じられる。
「えっ、そんな。鬼龍さんが嫌じゃなかったら送らせて下さい」
「そう、じゃあ送ってくれる?」
そう言って踵を返し、歩き出した叶を幸太が慌てて追いかけた。叶の横に付き、歩幅を合わせながら一緒に歩いて行く。
『この人は一体何を思っているんだろうか?』
並んで歩く叶の横顔を見つめて、幸太に疑問が浮かび上がる。
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