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叶が男達と楽しそうに話しながら歩いて行くのを見て、咲良は慌てて弘人に連絡を入れる。
「おう、どうした?」
「どうした、じゃないわよ!叶さん、あの変な動画配信の奴らとどっか行ったんだけど!幸太君何してんの?」
咲良の剣幕にやや気圧されながら弘人も驚きの声を上げた。
「いや、何してるかは分からないけど――」
「分からないなら連絡して聞いてよ!どうなったのか。叶さん、なんかあいつらと旧校舎に行くって言ってたよ」
「旧校舎に?分かった、連絡してみるからちょっと待っててくれ」
咲良との電話を切ると弘人は急いで幸太に電話をかけると、数コールで電話は繋がった。
「もしもし」
「幸太、家か?鬼龍さんとはどうなったんだよ?」
裏から喧騒も聞こえず幸太の声も静かだった為、弘人はすぐに幸太が家に帰っていた事に気付いた。
「いや、送って行ったけど途中で『今日はここでいい』って言われて、そこで別れたよ」
「あ、そうなのか。なんか鬼龍さん動画配信の奴らと旧校舎に行ったらしいぞ。大丈夫なのか?あまりいい噂聞かないって咲良も言ってたし、連絡してみたらどうだ?」
「いや、その、連絡先知らないんだ。それに俺なんかがずけずけと連絡するのもなぁ……」
「いや待て待て待て。なんで連絡先聞いてないんだよ?いくらでもチャンスはあっただろ?鬼龍さんぐらい美人と出会う事なんて滅多にないぞ!」
「いや、だからだろ。あんなに綺麗な人なんだから俺なんかが声を掛けても仕方ないかなって思ってさ」
「おい、何言ってんだよ!鬼龍さんも今日お前と喋ってても笑ってたじゃないか。おかしいだろ!何かあったのか?」
ネガティブな発言を繰り返し、覇気のない幸太に違和感を感じた弘人が問いただすと、幸太が重い口を開く。
「……実は鬼龍さんを送ってる最中、唯に会ったんだ。なんか異常に機嫌が悪くて、ちゃんとは覚えてないけど、あんたみたいなのにそんな綺麗な人がなびく訳ないって言われてさ。分かってるんだよ、釣り合わないって、高嶺の花だって事ぐらい。ただあらためて言われるとなぁ……唯も悪気があって言ってるんじゃなくて、俺の事考えて言ってるみたいなんだけど――」
「おい!本気で言ってるのか?悪気しかないだろ?少なくとも唯がお前の事考えてるとは思えねぇぞ!しっかりしろ!俺はとりあえず咲良を迎えに行く。その後お前の所に行くから待ってろよ」
そう言って電話を切ると弘人は家を飛び出し咲良との合流を急いだ。
電話を切った幸太は静かな部屋で一人横になり、物思いにふけっていた。
今日、叶と過ごした時間を振り返る。戸惑う事も多かったが楽しかった。それだけに唯の言葉が重くのしかかる。『身の程知らず』そう言われてるような気さえする。
だがそう思った時、ふと怒りに似た感情が沸いた。
『何故あいつにそんな事を言われなきゃいけない?』
叶に言われるならまだ分かる。だが唯に言われる筋合いはない筈だ。
今更ながら怒りが沸いてくると、先日咲良が動画配信者達を『女癖が悪いらしい』と言っていたのを思い出した。
鬼龍さん大丈夫か?――。
ふと気になった幸太はいても立ってもいられなくなり一人で部屋を飛び出して行く。
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